先日、人生で初めて合羽橋に行った。
東京の合羽橋といえば料理・製菓の材料や道具の宝庫。料理もお菓子作りも大好きな私にはまさに楽園だ。そこに私は東京3度目にしてようやく訪れることができた。前の2回は泣く泣く諦めたのだ。
行く前からそこが、私にとって夢の場所であることは明らかだった。その場に足を踏み入れたら丸一日そこにいてしまいそうだった。だから敢えて行きたいとは言わなかった。
同伴者を気にして存分に楽しむことはできないと思ったからだ。好きだからこそ、中途半端に回るくらいなら行かない方がいいと思った。
そして、三度目の正直とはよく言ったもので、今回私はインターンの出張で初めて一人で東京に行く機会があった。楽園を満喫するために、出張先のオフィスからは少し遠いが、合羽橋には近いホテルを選び、1泊余分に予約した。
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その日の朝は、目覚めた瞬間からもう意識がはっきりとしていた。クリスマスの子どもみたいだった。気を紛らわそうと、浅草寺やスカイツリーの辺りを散歩した。隅田川越しに眺めるスカイツリーは陽の光と川の水面が眩しすぎて、見上げるのに苦労したけれど、今の自分の心をそっくりそのまま映し出したような高揚感に満ちていた。
9:30。一部の店舗が開店する時間に合わせてホテルを出た。
私の楽園は、豪華絢爛、煌びやかとは程遠かった。新しげなおしゃれなお店もいくつかはあったけれど、ほとんどが昭和感あふれ、手書きの値札が貼られ、ときには埃をかぶっている商品もあるようなお店だった。
首を垂直に曲げ、絵を細めてやっと見えるくらいの場所までぎっしりとクッキー型が壁一面に貼られているお店。営業中の看板に吸い寄せられて入ったのに、もう少し待ってくださいと言われたお店もあった。それは業務用の看板を売るお店で、私が見たのは商品の一つだった。目玉が飛び出るような額の食器や包丁もあれば、格安のものもあった。
ネットですら中々手に入らないような専門的な製菓道具が無造作に置かれていた。様々なフレーバーやリキュールのサンプルを嗅いで過呼吸の時のように少し気持ち悪くもなってしまった。カニ歩きでしか通れないほどの通路で他のお客さんとはちあって、かなり気まずい思いもした。
全てが、楽しいという言葉では陳腐すぎるくらいだった。
他の何も気にしないで、行きたい場所に行き、見たいだけ商品を物色し、悩みたいだけ幾つもある中から戦利品になる一つを選べた。こんなに幸せなことが他にあるだろうか。
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長い通りを2往復はして、今買わなければ絶対に後悔するというものだけを選りすぐって買った。欲しいもの、使ってみたい道具や材料なんていくらでもあった。
運のいいことに出張があったのは2月初め。お菓子をたくさん作って、それを多くの人に食べてもらえる日も近い。今年のバレンタインはいつにも増して楽しくなりそうだ。
帰りの新幹線で、幸せな重みを感じながら、何を作ろうか、どんなデザインにしようか、私は幸せな悩みで頭をいっぱいにしていた。