27歳、無職兼幸せ者。それが今の私を表す最小単語だ。しばらく働かなくても生きていけるだけの貯金があるわけでもなく、特別な資格や高い学歴もない。しいて言えば容姿にも恵まれていない。印籠のように万人へ分かりやすく差し出せる価値は殆どない。

そんな「ある」ものよりも「ない」ものの方が自分を表せる私が、自分を幸せ者だと言い切れるのは、なぜか。その答えは、会社を辞めて崖っぷちの今だから見えてくるシンプルなものだった。

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今年数年間働いた会社を辞めた。人の流動が激しく2年もいればベテランといわれるような会社だったが、人間関係がとてもよく皆優しかったし休みも取りやすかった。仕事上のチームワークは良好である反面、プライベートへの必要以上の干渉もなかったので、とても居心地がよかった。

仕事内容や待遇に疑問を感じることがあっても辞めなかったのは、やはり人間関係が良かったからというのが一番大きいと思う。

望む仕事や環境へ転職を叶えたとしても、人が良くなければ続けられない。人間関係だけは求人広告だけで判断できるものではないからこそ、居心地の良い環境から抜け出すのは怖かった。

それに仕事でも評価されているし、評価は給与にも表れる。部署にとってなくてはならない存在だという自負もある。辞めない理由を考えれば、いくらでも足踏みし続けていられた。

それでも会社を辞めたのは、30歳まであと3年をきったのにこのままでいいのか、ということと、自分が本当にやりたいことが見つかったからだ。

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私は文章を書くことが好きだ。前の会社に入社したのは、とにかくなんでもいいから書きたい、書くことを仕事にしたいという気持ちからだった。

書くことができれば何でもよかったから、会社も未経験でも拾ってくれるところなら何でもよかった。

けれど、働くうちに自分が書いたものが売上に貢献したり、ユーザーに喜んでもらえたりすることで気づいたことがある。

それは私は書くこと自体も好きだけれど、書いたものが誰かに届いて、その人の行動や意識を変容させられることが好きだということ。

それはプライベートで書いている趣味のnoteやTwitterのつぶやきもそうで、あなたが書いてくれたことでより対象を好きになった、言語化してくれてありがとう、面白かった……そんな言葉をもらうことで、その気づきはどんどん育っていった。

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昨年後半に27歳の誕生日を迎え、30歳まであと3年となった時、自分が本当に好きなことに気づいたのに、このままでいいのだろうか?いつまで足踏みし続けるのだろうか?と、自問自答を繰り返す時間が増えた。このままじゃいけないと思い転職活動も同時に始めたものの、仕事をしているとどうしても目の前の売上や目標に向き合わざるを得ず、面接を受けても結果が出ないまま時間ばかりがどんどん過ぎていってしまっていた。

もういいや、とりあえず踏み出してみよう。何も決まってないけれど決まっていないことを楽しもう! 年が明けて、年末年始のあわただしさから解き放たれた私は、ついに今の温かく、そして少し冷めてしまった生ぬるい環境からも解き放たれることに決めた。お世話になった会社、好きな人たちから離れるのはとても寂しかったし、辞めた後も、そして今も実は本当に辞めて良かったのかとも思う。

けれど、辞める時にそれまで殆ど直接話したこともなかった上層部の方から、「あなたならどこへ行っても大丈夫」とかけてもらった言葉は、不安になった時に心の引き出しから取り出せるお守りのようになっている。

これは辞めることを決めなければ聞けなかった言葉だと思うし、何より会社で勤めていた時間が何も無駄ではなかった証だと思う。

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とはいえ、仕事を辞めて早1か月、どこへ行くか、具体的にはまだ決まっていないし貯金が減っていくことに焦りも覚えるけれど、それでも自分のことを幸せ者だと断言できるのは、自分が何を好きで何をすべきなのかはっきりと理解しているからだ。

自分が何をしたいのか、何をやりたいのか解らないというのは、年齢立場性別に関係なく普遍的に人が抱える迷いだと思う。前職の仕事の一環で人生相談を受けている中でも、自分が何をしたいのかわからないという悩みを抱えている人は沢山いた。

その中で、私はやりたいこともやるべきこともはっきりしている。書くことが好きで、書くことで人を動かすことが好き。画面の向こうにいる人に言葉を通して行動変容や意識改革を与えるのが、私のやるべきことで、使命だとすら感じている。

たとえ、周りから見て27歳で無職はやばいと思われたとしても、やりたいことがある私は自分のことを幸せ者だと思う。自分の使命がある限り、それはコンパスとなり迷うことはないからだ。

踏み出した足は前向き、幸せ者の私はどこかを目指して新しい道を歩みだした。