回る換気扇、具材を煮込む調理鍋、切れ味の悪い包丁、そして私の片手にハイボール。これは私のお決まり調理スタイル。台所に立つのは基本的に夜のみだが、その時は必ずハイボールを準備する。「飲みながら調理」という感じだ。毎晩作るのはご飯のお供ではなく、おつまみ。米は夜に食べない主義。実家は米農家だというのに米を食べないなんて、と父はよく言うけれど、一人暮らし独身女の晩酌とはそういうものなのだ。

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私のおつまみ作りは、休日の本屋から始まる。本屋に足を運ぶのが毎週末の恒例となっており、そこでは必ず料理本コーナーに立ち寄る。「時短レシピ特集」「一人暮らしに最適な作り置き」「旬の素材を使ったおもてなしレシピ」さまざまなタイトルが並ぶ中、片っ端から読み漁り、好みのメニューを探していく。ここで言う「好みのメニュー」とは、近所のスーパーで材料が手に入り、調理に手間がかからず、家にある調味料を用いて作れる私好みの味、ということだ。パラパラとページをめくり、気になるものを一つ、また一つと見つけていく。一通りレシピ本を読み終え、その中で好みのメニューが多く載っていた一冊を手にしてレジへと向かう。さて、何を作るか決まったからには、次は材料調達。レシピ本を片手に心を躍らせながら、その足でスーパーへと向かっていく。

行きつけのスーパーでは、何がどこにあるかとっくに把握済み。もちろん特売品も事前にチェック済みだ。料理とは、ただ単純に食べたいものを作るだけの行為ではなく、自分や食べる人たちをいかに楽しませられるか、そして食材たちをどれだけ最高な形で彩れるかだと私は思っている。その為には食材の食べ頃や特徴、保存方法なども予め知っておく必要がある。それが最終的に、私の父を含め、農家を営む方達への最大の感謝に繋がるのだと信じて。

お目当ての食材たちを入手し、あとは家に帰って台所に立つのみ。この時既に私の頭の中では、どのような工程で調理を進めるか、まるでジグソーパズルのようにピースを当てはめていく。火を通すのに時間がかかるものは先に、電子レンジで調理可能なものは後回しに、新鮮さが命のものは最後に、というように。

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家に着き、早速台所に立つ。この頃には私の頭の中のジグソーパズルは既に完成しており、あとはハイボールを飲み、好きな音楽を聴きながら料理を進めていくだけだ。

素材たちの匂いが部屋中に溢れる。その匂いをおつまみにハイボールを口に運ぶ。アルコールも相まって高揚する私の心を、着々と完成していく料理たちが更に上へ上へと押し上げる。料理ってたまらない。1人で食べるご飯も、誰かと食べるご飯も、料理が楽しければ更に美味しく感じるのだから。それに加えて、料理の楽しさは私に「本屋に行く喜び」も与えてくれた。毎週小説だけを探しに本屋に行く中で、料理本を手に取るという新たな楽しみも生まれた。どんなに疲れていても、必ず台所に立つ私を褒めてくれる人なんていないけど、それでいい。むしろ、それがいい。だってこれがただの「業務」になってしまったら、きっと私はこの先台所を愛せなくなってしまうから。

「いただきます」と手を合わせる。フライングでハイボールは先に飲んでしまっているけれど、その言葉を合図に、私は今度、「作ること」から「食べること」へ楽しみと幸せを切り替えていく。楽しく作り、美味しく食べる。当たり前のようで些細な幸せを、しっかりと噛みしめながら。