私は人付き合いが苦手だ。その中でも、自分より下の立場に当たる後輩と接するのは苦手中の苦手だった。
社会人になって数年たった春、そんな私に初めての後輩ができた。
その後輩は、前職があり、私よりも1つ年上だった。容姿は端麗で、ハキハキと話す、素敵な女の子だ。

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私はその子への接し方がわからなかった。おそらく社会人経験が私よりあり、コミュニケーション能力も私より高そうな彼女に、私ごときが教えられることなどあるのだろうか。
しばらくの間、私は業務連絡以外で彼女と話すことができなかった。
そんな挙動を見せる私は、彼女にとってもまた、接しにくい存在だっただろうと思う。
そんなこんなで、私は彼女と打ち解けるのに1年もの時間を要してしまった。
きっかけはバレンタインだった。
私の職場では、慣例として、職場内で一番の若手がバレンタインにお菓子を配るというものがある。前時代的な慣例だとは思うが、入社当時からあるその慣例で、私は特に疑問も嫌悪感も抱かずに従っていた。

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後輩の彼女が入社してきたので、お菓子を配る役割は彼女に任せて良かったのだが、毎年職場の人数分、小さなチョコレートを小袋に入れる作業がなかなか大儀と感じていたので、その年は私と彼女と、2人で作業ができればいいなと思っていた。
彼女と仕事以外で話をしたのは数えるほどしかなかったので、彼女にこの提案をするだけでも緊張したのを覚えている。しかし、断られるかもしれないという私の不安をよそに、彼女はニコニコしながら快諾してくれた。
彼女との作業は緊張したが、それ以上に楽しかった。後輩とは言え、職場内で一番年齢の近い彼女とは話題も尽きなかったし、彼女のコミュニケーション力に助けられて、私も自分が新入社員だった時に苦労したことなど、色々な話をすることができた。
奇しくも私が職場で一番面倒だと思っていたイベント、バレンタインに助けられ、私たちはようやく打ち解けることができた。
彼女との距離が縮んでからは、職場に行くのがとても楽しくなった。
仕事で起こった些細なアクシデントから、私生活のことまで、上司から少し怒られるほど、私たちのおしゃべりは尽きなかった。

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私は、先輩になるということに少し責任を感じすぎていたのかもしれない。後輩の彼女は、私を先輩にしてくれた。

まずは人として、友達のように打ち解けることで、私は彼女に仕事の効率化についても伝えることができたと思うし、職場内のあれこれについても多少は教えることができたかなと思っている。

それからまた数年たち、彼女もまた、先輩になる時がきた。
彼女はヘラヘラ笑いながら、「先輩って大変ですね」と私に話しかけてくる。全く大変そうには見えないが、彼女も彼女なりに大変さを感じているのだろう。私は少しだけ恰好を付けて、「でしょ?」と笑ってみた。私の精一杯の矜持を見透かしたように彼女はまたヘラヘラ笑うので、私は彼女には勝てないな、と思った。