晩ごはんといえば「家系ラーメン」か「コンビニ飯」か「中華チェーン店」の3択だった恋人が、手作りの晩ごはんを作ってくれるようになった。
それも、平日はほぼ毎日。

学生時代から彼と付き合い始めてもうすぐ7年目。それまで彼が料理を振る舞ってくれたことは片手で足りるほどだったし、当時の彼のアパートにあった調理用具はどれも埃を被っていて、お世辞にも綺麗だとは言えなかった。
同棲を始めて2ヶ月が経ったが、日々とても良い意味で期待を裏切られている。

◎          ◎

彼が晩ごはんを作るようになったきっかけは、私の残業。
在宅勤務でも当たり前のように21時過ぎまで仕事をする私を見かねてか、いつの間にか自発的に台所に立ってくれるようになった。

それに伴って、彼の作る料理も日進月歩を遂げている。
「彼くんの料理はジャンキーなものばかりだから胃がしんどい、もっと健康的な食事がしたい」と駄々をこねる私に、彼が今まで手にとらなかったであろう野菜たちをスーパーで買ってきては、献立に取り入れてくれる。
中途半端に余った食材が冷蔵庫に転がっていれば、それを活用したレシピをググってくれる。
ドラキュラが一目散に逃げ出しそうな量のニンニクと、一瞬「殺人現場か?」と目を疑いたくなるほどの多量なタバスコや一味を好む彼が、過度なニンニクと辛いものが苦手な私のために、それらを比較的抑えた味付けをしてくれる。
失礼を承知の上で言うと、まだまだ小さいと思っていた子供が急成長を遂げているかのようで、その伸び方に逆に恐怖すら覚えている自分もいた。

◎          ◎

ある時、「何でそんなに料理とか家事を頑張ってくれるの?」と聞いたことがあった。休日は私も進んでやっているとは言え、平日はどうしても彼に料理に限らない家事全般を投げてしまっている自分自身に罪悪感を抱いていたし、彼に過度な負担がかかっているのではないかと考えたからだ。
そんな私に、彼はこう答えた。

「『家族』のためだよ」

ハッとする私に、彼はこう続ける。
「家族が大変そうにしていたら、支えてあげるのが普通でしょ? 俺はしばらくは仕事忙しくならないし、こよみもいつも仕事頑張ってるから、せめて料理とかで支えられたらなー、って思って。それに、一緒にかいご飯食べたいしね」

参った。今まで彼を甘く見ていた。
彼がそこまで私のことを(まだ世帯が同じでないとは言え)「家族」の一員だと見なしていた上に、その「家族」を支えるために日々料理を作ってくれていたなんて。仕事ばかりで毎日生きるのに必死だった私には、同棲から既に「家庭」が始まっているという観点をすっかり見落としていた。完全に降参である。

◎          ◎

同棲生活は当人同士の価値観の違いや経済観念もあり、順風満帆にいかないケースもあるのかもしれない。
私と彼の場合も価値観の違いで喧嘩寸前まで行ったこともあるが、それ以上に彼の「お互いに『家庭』を支え合う」という意識が強いことをひしひしと感じ、同棲生活って本当に楽しい!!!!と思っている日々だ。
これからもずっと、彼の作る温かい手料理のように、彼の成長を見守っていきたいし、同時に温かい家庭も築いていきたい。