私には入社が早かった年下の同期がいます。彼女は新卒で4月に、私はその年の10月に中途採用で入社しました。彼女は私のことを後輩だと思っていたようですが、上司や周囲の職員は私を「人生の先輩」だからと、私に彼女に対する指導を期待しているようでした。 

◎          ◎

パートさんを含めても20人程度しかない部署は2つの室、さらにそれぞれ2つずつの課から構成されています。各課に1名の本部職員と他は都道府県からの出向職員で組織されており、それぞれの系譜を重んじる風潮でした。 

その年下の彼女は関西出身の面倒見の良い勝気な女性でした。学生時代にその会社でインターンにも参加していたようで、その自負があるように見えました。半年遅れて配属になった私は彼女とは別の室でしたが、同じ本部職員としてなにかと気にかけてくれました。

若手職員の勉強会に誘ってくれたり、部署内の人間関係について事細かに教えてくれたり、新しい職場環境にソフトランディングできたのは彼女の存在があったからと言っても過言ではありません。

◎          ◎

入社し半年が過ぎ新年度になるタイミングで配置換えがあり、私は彼女と同じ室、隣の課に異動になりました。これまで彼女と一緒に業務に携わることはありませんでしたが、新年度からは一緒に進めていかなければならないことも多く、私はあくまでも後輩としての立場で過ごすべきなのか、それとも年上として主導するように努力した方がいいのか迷っていました。

そんな中、若手育成の研究プログラムに2人で参加するようにと指示が出されました。それは年間を通して1つの研究したい事柄を自分たちで決め調査していくというもので、もともと彼女だけ参加する予定が、「まだ彼女は2年目だからプログラムを通して色々教えてやってくれ」というざっくりとした指示と共に私も参加することになりました。

同時に、彼女が所属する課の課長にこっそり呼ばれ、正しい敬語を使うとか時間ギリギリに出社しないとかお茶を出すとか、そういう素行の面も含めて研究プログラムを通して姿勢を見せながら指導してほしいという命令がありました。

「俺から言うのもなんだし」という謎の逃げ言葉を合わせて投げられた隠し業務は私を腑に落ちない顔にさせたのは言うまでもありません。先述した通り彼女は私のことを「後輩」と認識しているため、私から指図されたり指導されたりするのはきっと心地の良い物ではないのではないかと思いました。研究プログラムに一緒に参加することは業務だとしても、彼女の素行指導は私のマターではありません。途端に目の上のたんこぶができたような気分でした。

◎          ◎

課長は、彼女が私のことを後輩だと思っていることを知っているから「こっそり」私を呼び出して彼女の素行について指導してほしいと指示したのでしょう。しかも私自身もそんなにお行儀の良いタイプではありません。そこで、彼女が尊敬しているという他部署の先輩に連絡を取り、敬語の勉強の仕方や毎朝の過ごし方などを伺いました。

先輩は、敬語について分かりやすく説明されているとある本をバイブルとしてデスクに置いていることや、「朝の電話がならない時間帯が一番デスク周りがはかどるんだよー」と朝の時間活用術教えてくれました。そういったことを私自身も真似しながら、その有効性を彼女に伝え続けました。1年間が終わる頃には朝バタバタしている様子をみることはなくなり、上司とも起立をして丁寧な言葉遣いで会話をする素敵な職員になりました。

無理に先輩面、年上面をしなくても見せることで伝わることもあるんだと感動しました。私は、人に指示を出したり、仕事をお願いしたりすることは今でも苦手ですが、自分だけでも正しく丁寧に周囲に接することで相手に良い影響を与えられるということは忘れずに過ごしていきたいと思います。