私がこうしてかがみよかがみに投稿するのも、今回が最後となる。一昨年の11月にたまたまFacebookで本プロジェクトを知ったのをきっかけに執筆を始め、今月定年退職による卒業が決まっている。1年と4ヶ月。この期間は私にとって長いようで短かったが、それは間違いなく濃厚で、成長した場であったことは事実だ。

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本プロジェクトに参加する前から文章を書くことは私にとって身近なことで、小学生の頃から原稿用紙100枚を超える小説を書いていた。創作は合わないと察してからは事実に基づくものを書くようになり、最近ではいじめられていた小、中学生時代を記した45000字の手記『いじめ後遺症』を執筆した。ここでエッセイを書き始めた頃も執筆中であり、普段の公務と両立する傍ら同時並行で2つのものを書くこととなった。

自身の手記が完全な自由執筆であるのに対して本プロジェクトはお題を与えられてのものであり、多角的な視点から自身の経験や考えを述べる機会となった。また、1500字程度という字数制限から書ける内容が限られており、その分一つのテーマを深く掘り下げて書くことができた。これは手記を書く際に役立ち、本エッセイで書いたものを反映させることもあった。編集者の方が下さるコメントも新たな視点となった。

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振り返ると、私の執筆した記事の半数近くがキャリアに関するものであった。いじめや家庭内不和といった人間関係から、病の再発や就職活動の失敗といった成人してから襲いかかった試練、長かった学生生活を経て経験した社会人生活など、書き起こすネタは五万とあり、1500字埋めることに苦労はなかった。読者の中には私=キャリアというイメージのある人も多いと思うが、それほどキャリア形成に苦労した人生を送ってきた。かがみすとのエッセイの中でも、自然と仕事や持病といった本人にのしかかるものがよく目に映った。私とは違った側面で苦労をする方が多数おり、時には社会勉強に、時には励ましになった。

作家になりたいという志を持った人と繋がることができるのも、良い刺激であった。かがみすとの中には作家を目指し新人賞に応募する人、実際出版社に持ちかけ本を出版した人など、夢に向かって努力を重ねる人が多く在籍しており、行動に移さない私にとって良いお手本であった。エッセイの内容も一人一人が色のある作品を執筆しており、読み進める中で自分に足りない部分が見えてきた。読み返すと事実ばかりを並べるエッセイが多かったから、もう少し自分の気持ちを書き記しても良いのではないかと思った。

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そして、こうしたきっかけを作ってくださった伊藤編集長をはじめとする、かがみよかがみ編集部の方に改めてお礼を申し上げたい。私たちの多くはアマチュアで、これから作家を目指す方々も多く在籍している。その中でのかがみすと賞の発表や厳選は、好印象を持たれる文章の在り方を常に私たちに提示して下さっている。また、同じ夢を持つ同志のバックグラウンドは様々で、意見交換の場にもなれば励ましの場にもなっている。ランキングが発表されている時点で蹴落とされているような感覚を感じたこともあるが、支えられているという側面の方がはるかに強い。その点このプロジェクトは、これまで声を上げにくかった女性たちが集結し、共感し合うというまさに男女共同参画社会に求められているコンテンツの在り方を示していると言えるだろう。

また、階層の固定化が進む今日において、主に中学校卒業後は関わることができる人が限られているが、ここでは声を上げたいという共通の考えを持った人々の意見を聞くことができる。実際、貧困や障害といったこれまで可視化されてこなかった声が多く記されており、その点社会貢献性のあるメディアにもなっている。私自身障害を持ちながら公職に就く身として、ここから得られる情報は大変貴重なものであった。

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以上述べてきた通りこのプロジェクトから得られたものはここでは書ききれないほど実に多様で実りあるものであった。今後とも執筆を続けることができれば嬉しい限りではあるが、私は3月31日で定年退職を迎えた。このメディアが比較的新しいこと、数本の掲載のみである方が多くいらっしゃることを考えると、定年によって退く常連というのは少しレアな存在であるように思える。一足先にここで知り合うことのできた皆様に一言お礼を言いたく思い、最終日の23時を過ぎた現在ここに筆を執っている最中である。

私は明日から再びしつこいほどここで書きなぐってきた作家と公職の両立を目指して一歩踏み出してみようと思う。今度はこのような質の高いメディアに頼らず自ら立ち上がり、自分にしかできない何かを世に残すことができるようまた来る明日の自分を信じ、今ある生命を貴重なものと認識しながら生きていく。今度皆さんにお会いできる時には実際に何かを成し遂げた、あるいは結果がついて来ずともそうした努力を続けている自身の姿を約束し、私はこの場を去ることを決意した。

最後に、こうした機会を与えてくださった皆様に感謝の気持ちを申し上げる。

                                  栃木 あゆみ