私の夢は薬剤師になることでなければいけないと思っていた。

小学5年生の時、安定した収入と長く働けることを理由に、親戚から薬剤師を勧められた。他になりたいものもなかった私は、薬剤師になりたいと言うようになった。勧められるがまま受験をし、私立の中高一貫校にも入学した。

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そこまでは流されてきた。しかし、塾や学校にかかるお金がなんとなく分かるようになると、私は薬剤師にならなければと考えるようになった。家族は、薬剤師になりたいという私の夢のために、塾や学校の授業料を出してくれている。私が薬剤師になるのは、家族との、言わば契約だ。誰にも言わなかったが、そう感じた。

文章を書くのが大好きだったけれど、理系に進んだ。料理や栄養学にも興味があった。けれど、大学はもちろん薬学部を志望した。周りの人に応援されるほど、私は薬剤師に固執した。

県外の薬学部に籍を置いた私は、日に日に暑さを増してゆく部屋で一人、この「かがみよかがみ」のHPを見つけた。軽い気持ちで書き始める。すると、小学生の時は水を得た魚のように溢れてきていた言葉が、絞り出そうとしても出てこなくなっていることに気がついた。数学の勉強ばかりしている間に、あれほど好きだった文章を、私は書けなくなってしまっていた。それだけじゃない。勉強が忙しいからと好きだったお菓子作りもあまりしなくなっていた。食べる人がいないからというのはただの言い訳だった。
これで本当によかったのだろうかと後悔に近い思いに駆られた。

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それから少しして実家に帰った時、小学校の卒業文集を読んだ。私のページにはもちろん、薬剤師を夢見る文が綴られている。その最後の一文。
「私の好きな本に『あきらめられるのはあこがれ。あきらめきれないのが夢。』という言葉があります。私の夢は薬剤師になることだから中学でもがん張ります」

パティシエ、料理人、管理栄養士。どれも私は諦めた。趣味を仕事にしても楽しいとは限らない。好きなことは休日のための楽しみにするべきだ。薬剤師に縛られていることを言い訳にしてきたけれど、それが真実だったのだろうか。家族に申し訳ないと感じながらも夢を変えられたはずだ。薬剤師の夢を死守する努力を、私はしてきたのではないか。入院した祖父のお見舞いに行って、薬剤師の方ばかりを目で追ってしまった時間。食に関する仕事にどのようなものがあるか調べたが、タブを閉じて、薬剤師としての具体的な働き方を調べ直した中学生の日。受験勉強に明け暮れた受験生の日々。上限1000字の薬に関するレポートを削りに削った結果2500字で提出した、大学に入学して間もない頃の自分。複雑な計算式や化学式をパズルみたいだと無邪気に解いたワクワク感。

始めは憧れですらなかった職業だ。薬剤師を夢にすることに迷いはあったかもしれない。これでいいのだと自分を鼓舞した時もあった。それでも、私が選んできた道だ。私が諦めたくないと思い続けてきた夢だ。今、改めて思う。
薬剤師は私の夢である。