4月のとある土曜日。今日は珍しくお休みだったので、両親にリクエストして家族で夕飯に出かけることになった。お店は、心斎橋の近くにある、もう50年も続く老舗フレンチレストランである。両親が20歳くらいの頃に一度、デートで行ったことがあったらしい。家族で夕飯に行くのはいつぶりだろうか。しかもフレンチレストランなんて。せっかくなので、きちんとメイクして、お気に入りのブラウスとスカートを履いて、ヒールの靴を選んだ。玄関にみんなで集まった時、各々がほんのちょっとおしゃれして、なんだか特別な感じだった。

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お店は、心斎橋筋を少し出たところの雑居ビルの地下にある。お店の中に入ると、まるでフランスの地元で愛されるレストランと紹介されてもおかしくないような、かわいい内装だった。席について、各々がメニューを頼む。最初にワインがグラスに注がれた。乾杯して、まずは一口。鼻を通り過ぎていく葡萄の香り。そして爽やかで苦味の少ない赤のワインが舌の上を通る。チーズのアラカルトと、パンに無塩バターが届いたので、みんなで手を伸ばす。前菜が来る前にお腹がいっぱいになっちゃうね、と笑う。前菜はホワイトアスパラガスを頼んだ。日本で食べるのは初めてだ。ドイツに居た頃に一度、スーパーに並ぶホワイトアスパラガスの誘惑に負けて、見様見真似で作った思い出が蘇ってくる。

家族で食事するいいところは、気兼ねなく一口交換できるところだ。兄が頼んだ前菜のパテを、みんなでつっついてパンに塗って食べる。思わず胸が躍ってしまうような、肉臭さい感じがたまらない。文字にしてしまうとあまり美味しくなさそうなんだけれど、本当に美味しいのだ。弟の頼んだオニオングラタンスープも美味しそうだった。さすがにスープを一口もらうのは憚れたので、まだメインの料理も来てないのに「また食べに来たい!」と言って笑われてしまった。その後の魚料理も、メインの肉料理に、最後のデザートまで本当に美味しかった。今回食べられなかったものも、また食べに来て満喫したい。幸せな時間に、思わず饒舌になって、賑やかな店内に釣られるように、みんながよく笑ってよく話した。

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今日は大人だけの食事会だった。6つ下の弟も、もう23歳。小さい子どものいる姉は参加できなくて残念だったけれど、こうして気の置けない大人だけの夕飯が楽し過ぎて、滅多に飲まないワインも、今日はちょっとだけ多く進んだ。私たち家族は、お互いがどうしたら快適に楽しく過ごすことができるか知っている。それは奇しくも、祖父母たちによる反面教師によって培われたものだったけれど、そのおかげで私たちは、本当に大切にするべきな人を、本当に大切にする術を知っているのだと思う。そしてそ両親も、愛情を持ってきちんと私たちを育ててくれた。全員が全て完璧なわけではないけれど、良いバランスで生活できる。そして健康でみんなが幸せだと思える今が、とても尊い。

あと何回、こうして家族水入らずで特別な夕飯を迎えられるだろう。みんながみんな毎日がずっと幸せな状況なわけではないけれど、こうして楽しく幸せな時間を共有できることに、思わず両親が羨ましくなった。私もいつかとても大切に思える人に出会って、一緒にここに食べに来たい。自分たちに授かった子が大きくなると、またその子も一緒に食卓を囲んで、食事の感想を共有したい。そしていつか両親と兄弟と、大きくなったまだ見ぬ子どもたちと、もっと大所帯で囲む日が来れば、もっと幸せ。

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お腹いっぱいになって、ワインでちょっとほろ酔いになって、みんなで車に乗って家に帰る。母だけ帰りのことを考えて飲まずにいてくれた。兄と弟の肩に挟まれて家まで帰る道すがら、うとうとしながら幸せを噛み締めていた。色々あったけど、私は今幸せだ。これからは、多分もっと素敵な人生が待ってる。ここにいる全員に。そんなことをむにゃむにゃと喋る私に、弟が小さく呆れるように笑っていた。