幼稚園に入園してすぐの頃から卒園するまで、私はいじめられていた。入園した当初から皆に人気だった、サキちゃんに嫌われたことがきっかけだったと思う。20年以上も前の幼い頃の記憶なので、全てを鮮明にはっきり覚えているわけではないが、「えびふぃれお。ちゃん、おおきいからこわーい!」とサキちゃんに泣かれ、2〜3人の女の子たちがサキちゃんを取り囲んだという断片的な記憶がある。私は昔から背が高い。早生まれなのに、幼稚園入園の頃からずっと、周りの子たちより頭ひとつ分は大きかった。

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幼い子どもだったから、本気で陥れてやろうとか傷つけてやろうだなんて思っていなかったと思うが、年の割に大きな身長の私を、サキちゃんは何だか不快に思ったのだろう。私の身長へのヘイトから始まり、その後も、白い肌や古風で珍しい名前を揶揄われ、おとなしい性格の私は毎日じっと耐えていた。

歳の離れたお兄ちゃんやお姉ちゃんがいるサキちゃんと、その取り巻きの女の子たちは、考えることも使う言葉も少しませていて、兄弟が下にしかおらず、尚且つ早生まれの私はいつも圧倒されていた。例えば「(肌の色が)しろくてきもちわるーい!」と言って、色鉛筆やクレヨンを私に向かって投げてきたり、英語の授業がある幼稚園だったのだが、先生が英語で言った色に当てはまるものをタッチしに行くゲームの中で、先生が「black!」と言ったら私の頭を皆で叩いたりしてきた。

彼女たちは先生が見ていないところや、先生が見ていたとしても、やんわり注意する先生の前でしか悪いことをしなかった。私は泣いたり怒ったりしなかったし、親に言ったら悲しませてしまうことを、子どもながらになんとなく感じていて、親に言えなかったので、いじめが大人たちに知られることはなく、それどころか、エスカレートしていった。

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ある日のこと、私が1人で幼稚園の廊下を歩いていると、サキちゃんたちが近づいてきて、私を階段の踊り場に連れて行った。そして一言「ここからとびおりてしんでみて!」と、階段の下を指差してケラケラ笑った。悲しかった。怖かった。絶対できないと思った。

踊り場で私が困っていると、ショートヘアの女の子が私たちのいる方へ走ってきた。そして、彼女は「わたしがやる!」と言うなり、ピョンと階段から飛び降りて見せた。その姿に私が驚いていると、「あっちいこ!」と私の手を取り走り出した。その後で、体操を習っているから、こういうことは得意なのだと話してくれた。

突然現れ、私を守ってくれた彼女の家族は転勤族らしかった。私の祖父母の家の近くに引っ越してきていて、祖父母の家へ行った日には、外で一緒に遊んだこともあった。人見知りで、家から出ると、あまり言葉が出なかった当時の私は、彼女に助けてくれたお礼を言いたいと、ずっと思っていたが、言えないまま時は流れ、そうしているうちに彼女は幼稚園に来なくなった。どうして来ないのだろうと思っていたが、また親の転勤で引っ越してしまったとのことだった。それを聞いて、祖父母の家へ行った時、彼女の一家が住んでいた家へ行ってみたが、もう誰も住んでいなかった。

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私を助け、仲良くしてくれたあの子の名前は確か、ミサトちゃんとかサトミちゃんとか、そんな感じの名前だった気がするし、違うような気もする。いじめてきた子たちの名前は、今でもフルネームで覚えているのに、助けてくれた子の名前は残念ながら覚えていないのだ。
あの子は今、どこで何をしているだろうか。私のことは忘れていると思うけれど、もし奇跡が起きて、また会うことができたなら、あの時はありがとうとお礼を言いたい。