よく耳にする浮気の定説:男性は別腹で浮気をするが、女性は淋しくなると我慢できなくて浮気をする。だから男性の浮気を防ぐことは難しいが、女性の浮気は淋しくさせなければ起こらない予防可能なものだ、と。
果たして、彼女たちを淋しさから遠ざけることで、浮気とは縁のない生活を送らせることができるのだろうか。

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昔飲み屋で出会った自称モテる謎の男が、堂々とあの定説に似た話を語っていたことがある。
彼はその定説を彼女だけではなく、セフレにも適応しているようで、「女を自分から離れさせないためには、あえて下手に出て気にしている素振りを欠かさないこと」と豪語していた。
「所詮は女心が分かる奴がモテるってことよ」とも言っていた。

その話を興味深く聞かせてもらっていたが、その男の言う「女心」が「淋しさ」であると思う理由を尋ねることはできなかった。
なぜならその直後、その男が「結局男はセックスできる母親を探しているんだよ」と更に興味をそそるトピックを振ってきたので、そっちを深掘りしている間に流れてしまったのだ。なんとも悔やまれる。

立ち戻って、淋しさに我慢できなくなる女性の思い=女心について。
そもそも淋しさとはなんだろう。きっとあの豪語マンの脳内には、「恋人やセフレに相手にされなくて芽生える虚無感」くらいに思っているのだろう。
だから、「LINEは30分以内には返すべし」「週に1回はデートの誘いをするべし。無理でも次に会うことをチラつかせるべし」「愚痴は共感を込めて聞くべし。少なくとも聞く姿勢をとるべし」など実践的なアドヴァイスが生まれる。
なんて大変なのだろう、モテるって。

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しかし淋しさってそうじゃない気がする。
感情とは個人の価値観により多様なもの。どれだけ淋しさを紋切り型に定義したところで、結局は感じ方までコントロールをすることはできない。
更に厄介なのは、主観的であるがゆえに、自分の中で生じる感情は他人の感情でもあると勘違いしてしまうこと。
LINEが30分以内に返ってこないことに発狂する人もいるだろうし、とてつもなく面倒だと感じる人もいるだろう。そして発狂する彼女をヒステリーだとする人もいるだろうし、面倒だと言う彼氏をそっけないと言い切る人もいる。
「俺の彼女はメンヘラ」「私の男は釣った魚に餌をやらない」
恋愛が至極個人的な体験であると同時に、感情の生まれる理由も主観にまみれている。

だから言い方を換えれば、浮気の理由は淋しさではなく、状況や感情に対する自己解釈の単調さだと思うのだ。
例えばあなたがLINEの返信が毎回30分以上かかる彼氏に対して、「淋しさ」として虚無的な感情を抱くことは何も不自然ではない。
それはあなたの大切な感情だ。そしてその感情を抱いているのも事実だ。
ただ、その後浮気をしたとしたら、それは返信の遅い彼があなたを「淋しく」思わせたからではない。
だって、その「あなたの淋しさ」は「彼の淋しさ」と一致していたのか分からない。
だから正確に言えば、あなたは「あなた独自の淋しさ」によって浮気をしたのだ。
もっと言葉を強めるとしたら、あなたは「あなただけの判断で状況を淋しい」ものと決め、彼氏に非があるとして浮気をしたのだ。つまりは一人芝居。

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恋愛は一人でするものではない。相手が複数かもしれないし、無機物かもしれない。
だからこそ、恋愛を通してあなたの中で生まれた愛しい感情は「私個人にのみよるもの」と思うことが大切なのだろう。
これは浮気に限ったことではなく、日頃相手と向き合う際にも言えることなのかもしれない。
だからね、あの時の豪語マンくん、あなたの言う女心はあなたが思う女心なの。次会う女性には適応できないかもしれないのよ。
でもあなたはそんな女性に出会っても「女らしくない」と片付けてしまうのかもしれないね。
またしても悔やまれます。