生まれてからずっと呼ばれ続けている、自分の名前。
それを好きだと思えている人は、どのくらいいるのだろうか。
私は、自分の名前があまり好きではなかった。

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私の名前は、漢字で書くと2文字で、読み仮名3文字。
周りにはいないけれど、そんなに珍しい名前ではない。
読みづらいわけでもなく、キラキラネームでもない。
自分の名前を初めて嫌だと感じたのは、私が小学1年生のときだった。
まだ習っていない漢字なので、私は名前をひらがなで書いていた。
すると、それを見てからかってくる男子がいた。
小学生になりたてで、言葉を少しずつ覚えている段階。
漢字は難しくて分からなくても、ひらがなだからこそ、からかわれる対象になってしまったのかもしれない。
その男子のせいで、他の男子たちからもからかわれるようになった。
女子も数人、面白がって言ってくるようになった。
私は、何も言い返せず、ただ黙っているだけだった。
言い返したところで、またからかわれる。
だから、何も言わずに下を向いていた。

小さいころから私を知っている周りの大人たちは、私を読み仮名の2文字目までで、「○○ちゃん」と呼んでくる。
小学1年生のときのことが頭に浮かぶので、本当は呼んでほしくなかった。
止めてほしいと言えないのは、からかってきた男子たちとは違い、彼らが愛情を込めて呼んでくれているから。
分かっていても、やはり呼ばれることに抵抗があった。
名前について思っていたことを、私は誰にも言ったことがなかったが、当時はすごくつらかった。

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学年が上がると、また嫌な思いをするようになった。
今度は、名前の読み方を変えて呼ばれるようになった。
「また名前でからかわれるのか」と、気持ちがさらに沈んだのを覚えている。
授業で習ったものを、人をからかうために使う。
言っている側は、面白半分でそうしていたのかもしれない。
でも、言われている側の私からしたら、地獄の言葉遊びだった。
私が言葉や感情でSOSを出せなかったからか、先生たちは気づかず、注意もしてくれなかった。
祖母がつけてくれた名前なのに、「名前を変えたい」と本気で悩んでいた。

上京してから、私は名前で呼ばれることが減った。
語学系の授業で、たまたまリストから選んだニックネーム。
大学時代はずっと、周りの友人たちからそのニックネームで呼ばれていた。
私はそれがとても嬉しかった。
地元にいたころのような思いはしないし、何より特別な感じがした。

ある授業で、自分の名前の由来について話す機会があった。
私は、祖母から聞いたことを思い出した。
「周りから愛されて、可愛い子に育つように」
それが、私の名前の由来だった。

名前であまりいい思いはしてこなかった。
名前負けしていると思うこともあった。
生まれたときから、家族や地域の人たちからたくさんの愛情を注いでもらって育った。
大学では人間関係に恵まれ、友人もたくさんできた。
可愛い子に育っているかは微妙だけれど、「周りから愛される」という部分は合っていると思う。
今では、名前をつけてくれた祖母に、感謝の気持ちでいっぱい。

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大人になった今、名前をからかってくる人はもういない。
私は、自分の名前に誇りをもって生きていきたい。
名前は、誰もがもっているもの。
人によっては、その名前が人生に大きな影響をもたらすこともある。
将来、もし私に子どもができたら、その子が自分らしく生きられるような名前をつけたい。
そのころには、私のような思いをする人がいない世の中になっていたら嬉しいなと思う。