あの夢があったから。そのテーマに私は一つしか書くことが思いつかない。19年目に差し掛かった私の人生において、夢はたった一つだけだ。可愛げのない子どもだった私は、お花屋さんやケーキ屋さんという誰もが一度は通る夢を持ったことがない。だから私は最初の夢を今でも追い続けている。
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私は本が好きだ。本好きな母の影響で、小さい頃から本を読むことが大好きだった。他の女の子が夢中になるお絵描きやあやとりや折り紙やそんな遊びには目も向けずに、ずっと本と向かい合っているような子どもだった。地域の図書館が大好きで、週末には必ず10冊借りていた。それだけ本が好きだったから、自分も書いてみたいと思い始めたのがいつなのかはもう覚えていない。
初めて書いたのは小学2年生の時。20ページにも満たないような絵本を妹に作った。妹は喜んで、幼稚園でも自慢してくれた。母も父も祖父母も妹の幼稚園の先生もすごく褒めてくれた。また書きたいと思った。これが終わらない夢の始まりだった。
中学生になっても、私は本より面白いものを見つけることができなかった。部活に入らないクラスメイトが他にもいたのをいいことに帰宅部を選び、家で本を読み耽っていた。読んでいない時は色々な設定を考えた。中学2年生の時に初めて長編を書き始め、中学生のうちに8万字を超える長編を書き上げた。今読むと途中で放り出したくなるくらいに稚拙だが、当時は誇らしくてたまらなかった。それからは、誰かに「部活入ってないの?」と聞かれるのが怖くなくなった。だって私は小説を書いている。だから何もしていないわけじゃない。口には出さなくても、それは私のお守りだった。
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高校生になった時、一人の友達が「小説を書いてみたい」と言った。私が既に書いていることを伝えると、友達は目を輝かせた。夏にある賞に向けて、一緒に書くことになった。放課後毎日のように学校に残って書いて、一次予選を通過したのは友達の作品だった。LINEで伝えられたから、私はすぐにおめでとうが言えた。たくさんスタンプを送って気持ちを紛らわせた。もし、面と向かって言われていたら、すぐにおめでとうを言えた自信はない。私は小説を書くということが誰かに奪われてしまうのが怖かった。友情は崩れることなく、それからも一緒に書いた。だけど、どんどん腕を上げていく友達の傍ら、私は筆が進まなくなった。また力の差を突きつけられるのが怖かったから。小説はお守りじゃないって気づきたくなかったから。
また書き始めたら書けるはず。そう思って書かなくなった。そう思っているうちに受験生になって、受験を言い訳に書くのをやめた。その間にも友達は小さな賞にいくつも応募し、その中の一つで優秀賞を取った。友達は文学部に進んだ。小説家になれなくても、出版社に勤めたいと話した友達には私は敵わない。だって私は叶わない夢の近くにいたくないから、文学部ではない他学部を選んだ。私は小説家という夢を捨てた。
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今、私はまた書いている。捨てたはずの夢をまた追いかけている。捨てたくないというより、捨てられないと思っている。大学に通っている今も、私は他の夢を見つけていない。小説家という夢は私の人生の唯一の夢だ。私を救ってくれた夢は時に私を苦しめ、時に生きる意味を与えてくれる。本当は書き上げた後の達成感が一番好きなはずだった。他人の評価じゃなくて、あの達成感のために書いているはずだった。もう一度あの感覚を味わいたいから、私は今日もキーボードを叩いている。