高校生の頃、幸せに出逢う仕事がしたかった。人生の大きな門出に立ち会う仕事。その門出は、私にとって結婚式だと思っていた。

結婚式に携わる仕事であるウエディングプランナーを夢見た日から、もう何年経っただろうか。現在、コロナ禍の影響で式を挙げる人は減少し、さらに物価高騰も深刻であることから、ウエディング業界は窮地に陥っている。
もし、それでも今後ウエディングプランナーを目指す人がいるとしたら、私は応援したい。自分が叶えられなかった夢を叶えてくれる人に出逢うことは、この世において奇跡だから。

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ウエディングドレスに夢を託して、長い人生をともに生きるパートナーと永遠の愛を誓う結婚式に、さまざまな愛の形があってもいいと感じていた。

同性婚や事実婚などを希望するカップルが、結婚式を挙げることがもっと広まっていくことを願う。愛の形は、他人が決めることではないからこそ、いつの時代も自由であり誰にも邪魔されない愛を育んでほしい。そう願うのは、きっと私だけではないだろう。

もし私の目の前に王子様が現れたら、すぐに結婚を申し込むかもしれない。その時、もし私がウエディングプランナーだったら、結婚式を全てプロデュースできることを売りにするだろう。そんな夢を膨らませながら、現実の厳しさに立ち向かわなければいけないときが必ず訪れることを考えると、夢の世界に旅立ちたい衝動に駆られる自分がいた。

今、私はウエディングプランナーの世界には進まず、芸大の通信課程で学びながらこうして物書きをしている。

これには、誰もが想像していなかったコロナ禍に翻弄されていくなかで、ウエディング業界の先行きを不安視したことがきっかけで、第二の夢である小説家を目指したという深いわけがあるのだ。

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高3に遡る。ウエディングプランナーになりたいけど、この時代何で生きていけるのか。私の脳内は、常にそのワードが渦巻き「今しかない青春」などまったく無関心だった。

3年生となると、クラスメイトの大半は卒業後の進路に向けた準備に追われる。大学受験、指定校推薦など、教室中はいつもピリピリとした空気が漂う。

特に女子は看護師や保育士の仕事に就きたいと希望していたし、男子に関しては「とりあえず大学生活を謳歌したい」という声が多かった。

そのなかでウエディング業界を目指すのは、私ひとりだけで同志はいなかったけれど、同級生と違う道に行くことを恐れてなんていなかった。むしろ、誇り高い気持ちになったと同時に、自分だけの夢に突き進むことへの贅沢ささえも覚えていた。

しかし思春期の人間というのは不思議な生き物で、自分でも予測できないほど気分の浮き沈みが激しい。

春の訪れより早い1月に卒業式を終え、4月までの2か月間に、ウエディングプランナー学科のある大阪の短大に進学が決まり、引っ越し準備や大学生活への心構えをしていくうちに、初めての1人暮らしに加え新型コロナウイルスが変異し始めたことによる不安が私の脳内を駆け巡っていった。もうダメだと思った。

1人暮らしなんて想像できないうえに、未知の新型ウイルスに打ち勝つパワーは今の私にはないと、進路に向かって力を振り絞ったときには考えられないほど、自信を失っていた。それから進路を変え、もう一度自分の夢と向き合った。

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それが、小説家の夢を叶えようとする今に繋がっている。もともと幼いころから本を読むことが好きで、自分の思考を言葉で表現してみたかった。芸大の通信課程には文芸コースがあり、自宅にいながらレポートやスクーリングで学習ができ、このご時世にも私にも最適なのだ。

こうして叶えた夢と叶わなかった夢が、私の原動力となっている。