いい人は、モテない。
お人好しで人情深い一人の女が数々の恋愛を経験して導いた答えは、残酷だった。

幼少期、幼稚園の先生や友達のママら、周囲の大人は私を「優しくて思いやりがある」と評価していたのを記憶している。褒められて気分が良かったし、長所として捉えていた。年を重ねるにつれて、自身の感情を抑えつけ、惨めな思いをさせる邪魔な素質となった。

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人生で初めて男の子と付き合ったのは、小学校6年生の時だった。気になっていた彼から、告白されるという奇跡的な出来事が起こった。早々、週末にファストフード店で食事をしてゲームセンターで遊ぶ初デートをした。浮き足立った時間もつかの間、1週間で別れた。理由は分からないが、突然振られた。「きっと、彼を満足させられる女じゃなかったんだ」。怒りや悲しさというより、自責の感情が強く生まれた。恋愛は人を傷つける危険をはらんでいる。身をもって知った。
人を好きになったら、1年は気持ちを継続させる。
付き合っていた人と別れてから数か月は、次の交際を始めない。
人が良い私は、自分と同じ思いを誰かにさせまいと2つのルールをつくった。おかげで恋盛りのはずの中学時代、好きな人ができても気のせいだと思い込み、ひとりでに恋心を消した。結局、感情を伝えるどころか表現せず、誰とも付き合わない3年間を過ごした。

一方で、当時最も仲が良かった友人は正反対だった。男の子を取っ替え引っ替えすることに抵抗がなかった。むしろ、楽しんでいた。数人の男の子と並行してメールをやりとりし、その気にさせて2人で遊びに出かけた。相手が本気になると一転、素っ気ない態度で距離をとり、別の彼をターゲットに恋愛ゲームを新たに始める。まさに、悪女だった。

「いつか、痛い目を見ればいいのに」。自分に好意を抱く男の子たちについて、自信に満ち溢れた表情で語る彼女の武勇伝を聞きながら、密かに願った。本当は、彼女がうらやましかった。私だって駆け引きしてたくさんの男性に言い寄られたいし、気楽に恋愛したい。何度か試みたが、できなかった。目の前の相手と、誠実に向き合わないと気が済まなかった。

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そんな私が一度だけ、彼女の恋愛ゲームで勝った。高校1年生の時だった。別のクラスで野球部の彼。同世代の男の子と比べ圧倒的に地に足がついていて、周囲が女の子の容姿ばかり目を向けて品定めし、アプローチする中、彼は特別可愛かったりスタイルが良かったりする訳でもない、平均値の私に関心を持ってくれた。おはようからおやすみまで、毎日連絡を取り合った。その日あった出来事や趣味の話…。気付けば、1つのメールに3つの話題が上がり、スクロールして読む分量になるほど。  

彼のクラスには、私が5年近く片思いしている男の子がいた。一度振られたが忘れられなかった。彼との出会いで、ようやく次の恋愛に気持ちが向き始めた。「長いメールって好まれないよ。返信めんどうだし」。気恥ずかしさを隠せず、上機嫌で近況を話す私に、彼女は警告した。どうやら彼女は、彼ともやりとりをしていたようだ。しかし一向に関係を進展させない彼にしびれを切らし、別の相手に切り替えたようだ。一方の私は、じわじわと距離を縮め、半年近くかけてようやく校内でアイコンタクトをとるまでになった。

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関係を終わらせたのは、私だった。彼は、私に好意を抱いてくれているのだろうか。もしそうなら、私は彼と恋を始めたい。つい、気持ちが前のめりになり、淡い期待を抱いて勝負に出た。長年、好きな男の子がいるが、そろそろけりをつけたいと話した。彼からのメールが途絶えた。最後まで、悪い女になれなかった。彼の本心は分からないままだが、なりたい女性になれない私にも関心を持ってくれる人はいる。一筋の光を照らしてくれた。

それから10年近くたった27歳の時、仕事で知り合った男性と結婚した。私以上に愚直で、大真面目。もっと適当にやればいいのに、とか、人はそんなこと気にしていないだろうな、とか、思う節がしばしばあるのだが、それが魅力でもある。そんな彼と一緒にいられるのは、こんな私だから。理想と現実のギャップに苦しむ局面は、恋愛以外にもある。それでも、私は私のままがいちばんだと、胸を張ろうじゃないか。