私の人生は、彼によって変えられた。今まで、恋愛とは無縁な人生を送っていた。というか、恋愛どころか友人さえほとんどいない人生だった。今で言う「毒親」に育てられ、両親は毎日のように喧嘩をしていた。そもそもそんな人生で、恋愛に憧れるはずがない。私は、恋愛をしないキャリアウーマンになる予定だった。それも毒親に進路を塞がれ諦めて就いた接客業。そこで私は、人生を変える出会いをした。いや、してしまった、のである。

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接客業は、周りが思っているよりもとにかく人員の入れ替えが多い。そんな中、私はあるアルバイトの男の子の教育に励むことになった。誰よりも笑顔が素敵で、誰よりも明るくて、誰よりも優しかった。男性の優しさに触れたのは、これが本当に初めてだった。

今までずっと、気持ち悪い毒親と、親に愛されて育っているにも関わらず全力で生きていない男性しか、周りにいなかったから。私の人生に、華が添えられた、と思っていた。ある日までは。

なんと、その男性と、以前一緒に働いていた私の先輩が付き合っていたのである。会社の飲み会で伝えられた私の毎日は、また絶望に落とされてしまったのである。ただ付き合っているだけならいい。何度も何度も、私の職場に来る彼女の姿を見て、私のメンタルは崩れていった。接客業はシフト制だ。そのシフトを合わせて、彼の退勤時間になると彼女はやってくるのである。華美なアクセサリーと、退勤後に着替えたであろう少しだけちぐはぐな服装を召して。

私が一番覚えている出来事がある。その日は、ピザを食べに行くと言っていた。なんの変哲もないデートだ。なぜ覚えているのか。それは…彼女は少しだけ常識が無く、バックヤードに入ってきたからなのである。5年経った今でも、ずっと忘れることなどできないのである。これから先も、何年経っても、ずっと。

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これだけではない。接客業には、アルバイトの若者が複数いる。チェーン店であるが故、アルバイトでお店を回すなんて、こんなことは日常茶飯事である。というわけで、何度も若者だけで飲み会やご飯会に行った。何故私は、自分の好きな人が彼女といるところを、間近で見なければいけないのだろうか。この件で、何度も仕事を辞めようかと悩み苦しみ私の気持ちも、考えてほしい。

これだけでも史上最悪な人生なのだが、さらに追い討ちをかけるように「私史上最悪の一日」がやってくる。その日は、遅番で10:00ごろに起きた。私には、LINEを頻繁に見る癖がなく、気が向いたときに返す人間である。昨晩、先輩から1通のLINEが届いた。

「私の彼氏に旅行のお土産渡したって聞いたけど、何か理由ある?」

理由も何も、普段から仕事でお世話になっているのだから、旅行のお土産くらい渡すとおもうのだけれど。きっと聞きたいことはそういうことじゃないよね。というわけで、嘘をつくのもだめだと思い、当たって砕けろ、の精神で全ての心の内を打ち明けてしまったのである。好きになってしまったことも、勘違いしてお土産なんかを渡してしまったことも。その先輩からはその後特にいじめられることなどなかった。が、何より気まずいのは私の仕事である。その日は思いっきり勤務時間がかぶっていて、正社員だから指示することも伝えなくてはいけないことも山ほどあるし。だけど、その日から彼女は仕事を邪魔しに来なくなった。それだけはありがたかったかな。飲み会に行った場所に行けなくなったり、Wデートした現場に入れなくなったりしたけど。

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どうしたって勤務時間被っているし、私は正社員だからすぐにも辞められないし。次の店舗に異動の事例が出るまでの半年間、私から笑顔が消えていった。今考えれば、全員、子どもだったのかもしれない。4年経った今、なんと彼女たちは結婚目前で別れてしまったらしい。私は、事実に優越感を感じてしまった。私の地獄の日々に比べたら、この二人の悲しみはちっぽけなものにしか思えないのだから。だけど、20歳からの貴重な時間を、私に返して、と思うくらいには恨みが止まらない。ここでしか言えないから、吐き出させてほしい。来世は彼と、幸せになれますように。そう願って生きていこうと思う。