正直に申しますと、私の思い通りなのであります。家に連れて帰らせてもらったことは。信じてないようですけども。一線は越えても良いと思っているのに、乙女の恐怖から、結局は誘惑だけして笑うのです。

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それでも無理矢理には手を出さないのは、私に魅力がないからなのでしょうか、それとも理性なのでしょうか。泥酔し、吐き、泣く女に口づけをする。正気ではない、と酔った頭で考えました。そして言うのです、「女がいるの」だと。勘付いていました。

それでも抱きしめてくれる。私はその人肌の温かさを抱きしめ返しました。正直抱けると言いわれましたが、女のいる男に抱かれるほど野暮ではありません。

「彼女がいるんでしょ、ならダメ」

微笑んでそう返すと、身体を触り、私を『男殺し』と名付けました。笑い合うと、舌を絡めて口づけをするのです。私が過去にも同じことをして今も気になっている『ある人』の話をしました。

すると、「その男に抱かれてこい」と言いました。

『ある人』は私を抱く気がないことは分かっています。私を好きになることもないでしょう。それでも昔とは違う、『男殺し』な今の私ならば、あの頃は出来なかったことができるのでしょうか。思い通りに行くのならば、また『ある人』の家に帰りたいと思うのです。

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一ヶ月後、満月の夜でした。『ある人』からの連絡では約束の時間に間に合わないとのことでした。「今どこにいるの?」絶対に聞かれると思った私は予定時間の一時間前に家を出ました。予想通り、「今どこにいる?」と通知が来ました。少し時間を置いて、「電車の中」と返しました。本当はもう着いていました。

「今日はやめようか」、そう言われるのが怖かったのです。それでも私は少しの逃げ場として、引き返すことができる『電車の中』を選んだのでした。返事は思いもよらないものでした。

「時間ずらすね。連絡するから。どこか暖かいところで待ってて」

忙しいのに時間をずらす連絡をお店してくれたこと、待っててと言ってくれたこと。何時間でも待とう。そう思える暖かい三月の夜でした。私たちは遅めの夜ご飯を食べました。

私が選んだお店。予約を取ってくれたことだけで十分幸せでした。本命はおしゃれなお店に連れて行くもんだ。本命になれないことはもう分かっていました。女の勘、本能的な勘です。だからどこでも良いのです。『ある人』に会えれば。その後はお決まりのようにダーツに行きました。時刻は22時。この時点で分かっていました。「今日はこの人の家」だと。ダーツの結果は私の圧勝です。『ある人』は今日はやけにお酒をよく飲んでいました。

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そしてエレベーターで脱げた私の靴を突いた瞬間でした。もう1つのゲームにも勝てると確信しました。「今何時?」「23時30分」「JRには間に合うけど最寄りのメトロは終電ないよ、また一人でトボトボ帰るのね〜」「うち来る?」「新居行く!」ふふふと楽しそうに笑う私を『あの人』はまるでこうなることが分かっていたかのような顔で優しく見つめていました。前回、次の日に予定あるから今日は大人しく帰りなさいと、私に言ったことに責任を感じていたのでしょうか。そして「今日は満月だよ」とビルの立ち並ぶ帰り道を進み、私は綺麗な人ではなくなりました。ずっとこうなることを望んでいた自分が既にいたことをはっきりと思い知らされました。そして、本命にはなれないことも。こうするしかそばにいられない、ならば…。

運命の人ではなかったのでしょう。分かっていました。何も始まらないのだと。私が家を決め、あなたの近くに行くと、「彼女ができた」とあなたは言うのです。

近くに居ようとすればするほど、あなたは遠い存在になっていく。心が疲れる前にあなたのことを想うのはやめよう。だってそうしなさいって、神様が言っているから。耳を傾けなかったらきっと苦しみが続くのでしょう。

運命はある・物事は起こるべくして起きている。神様はその人が乗り越えられる試練しかお与えにならない。神様に質問です。これは、私が乗り越えなくてはいけない試練なのでしょうか。

人を想うことを止めることは難解であります。