大好きな子は悪女だ。優しくていつも周りを気遣って、みんなにはめちゃくちゃいい子なあの子は私限定の悪女。きっとあの子のことを悪女だと言っても、誰も信じない。そんなあの子が悪女になったのは、自分に自信を持ったから。私はそれが少し誇らしい。

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高校時代の同級生のあの子は私にとって特別だ。大学生になって人間関係が大きく広がっても、私はあの子以上に可愛い人を見つけていない。好きな人だと少し重たくて、でも友達じゃもの足りなくて、推しというには距離が近い。以前もエッセイに書いたあの子のことが私は今も変わらず好きだ。異性の気になる人ができた今も、あの子が特別なのは変わらない。気持ちは変わっていないけど、以前とは関係性は大きく変わった。些細なLINEもするようになったし、春休みには二人で旅行も行ったし、お互いの親にだって会った。卒業アルバムのフリーページの4分の1はあの子からのメッセージで埋まっているし、バレンタインには他の友達にあげるものとは違う本命をお互いに渡した。春休みのカメラロールは全部の写真がきらきらして見える。
あの子は私に心を許してくれた。周囲の目を気にして、嫌なことも全部我慢して笑うあの子が私にだけは心を開いていると言ってくれた。

そして、心を開いてくれた結果あの子は悪女になった。初めは言いたいことを言ってくれるようになっただけだった。あれを食べたい、あそこに行きたい、今までは誰かに合わせていたあの子が主張をするようになった。それだけでも私は嬉しかった。

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そのうちに私に愛されていることを確信したあの子は小悪魔のような言動をするようになった。写真映りを褒めた私に「だってあなたは私にフィルターかかってるでしょ?」と言ってみたり、人混みではしれっと恋人繋ぎをしてきたり、「ずっと隣にいてくれないと許さない」と言ってみたり。全部全部、私があの子を大好きなことを知った上でしてるから本当にずるい。
そんなあの子に振り回されてばかりだったけど、「別に気にしてないからいいよ」と言って、自分のことを軽く扱うあの子を見ることしかできなかった時よりずっとよかった。輪の中で笑うあの子を好きになったけど、私を振り回しながら自信を持って笑うあの子をもっと好きになった。

今年になってあの子は遠くへ行ってしまった。学校に行けば毎日会えていたあの子は、新幹線に乗らないと会えない人になった。話さなくても教室で見れていた姿は、インスタのストーリー上でしか見れなくなった。
私じゃない友達の隣にいるあの子を見るのは少し辛いし、私以外に心を開ける友達ができたのは少し寂しい。だけどそれがあの子にとって幸せだからいい。そう自分に言い聞かせて、あの子の楽しそうなストーリーを見ている。

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新しい友達と大学での生活をエンジョイしているあの子はゴールデンウィークは帰ってこなかった。「絶対帰ってくるから会ってね」って言ったくせに。それを「ごめんね」だけで終わらせるなんて本当に悪女だ。
もしこのまま夏も帰ってこなかったら、私があっちに押しかける予定だ。「会いに来てね」と言ってくれたのを、私は今でも忘れていない。私だけが今も高校時代にしがみついている。
たとえあの子が心を許せる人が何人できても、私はこれからもあの子が悪女でいられる人でありたい。あの子がそのままの自分でいられる人でありたい。
もっと時間が経って、一緒にいないのが当たり前になったら気持ちは薄れるのかもしれない。そうなったらきっと今より苦しくなくて、だけどすごく寂しい。
だから早く夏になりますように。私があの子を大好きなうちに。