私が大学生の時に働いていたスナックにミキさんという、女性の私でもドキっとしてしまうほど、色気のある艶やかな女性がいました。ミキさんは2人のお子さんがいる33歳で、昼間はモスバーガーでアルバイトしていました。

黙っていれば、夜のお店で働いている雰囲気は一ミリもありません。出勤時に見る、私服のミキさんは普通の主婦さんのような見た目で、派手な格好でもなく、顔も丸顔でかわいらしい印象でした。しかし、ひとたびドレスに着替えると艶めかしさを纏うのです。私はミキさんに密かに憧れていました。

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お店に在籍している女の子の9割は30代以上の艶々の女性たちでした。大学生だった私は今思い出しても恥ずかしいほど芋っぽく、芋臭い子が入ったらしいって聞いたから様子を見に来たとお客さんに言われてしまうことがあるレベルで田舎の芋娘そのものでした。そのため、お店のお姉さま方の中で馴染めるわけもなく、「学生」という身分に助けられていても浮いた存在だったと思います。

それでもミキさんは、一緒にテーブルについたときにはお客様に紹介してくれたり、1着しかドレスを持っていないことに見かねてドレスやサンダルをくれたり、親切にしてくれました。ミキさんは恩着せがましくするでもなく、過不足なく接してくれました。その時「私からドレスとかもらったっていうのは内緒ね」と言うのです。あまり気にしませんでしたが、後々理由が分かることになります。

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ミキさんはお店の女の子の中で好かれている存在ではありませんでした。他の女の子のお客さんがミキさん指名になってしまったり、売り上げの順位が高かったり、妬みの対象だったようです。他の女の子にも「ミキさんと仲良くするとお客さん取られちゃうから近寄らない方が良いよ」と忠告されたこともありました。

ミキさんが親切な人だと知っている私はお客様待ちの待機時間にミキさんに話しかけたり、お茶を出したりしていましたが、2人になったときにミキさんに「私と仲良くしてると嫌われちゃうから気遣わなくて良いよ。私はみのりちゃんのことはかわいい後輩だと思ってるけど、悪い女だから純粋に人をかわいがったりできないの」と言われました。

私はミキさんにいつも助けてもらって感謝していることや、ミキさんから女性としての在り方などをもっと学びたいと思っていることを伝えました。

以来、他の女の子がいる前では話しかけてもらえないものの、2人になったときにだけ、色っぽく見える表情や相槌の打ち方、お化粧の仕方などを指導してくれました。水商売はお客様にどれだけ夢の時間を提供するかだから、勤務時間中だけでも素敵な女性でいなさいね。世の中はお金、稼げる人になりなさい。と言うミキさんは貢がれたドレスやアクセサリーで輝いていました。

私は大学卒業と同時にお店も卒業しましたが、お客様に就職祝いとして車をプレゼントしてもらうまで成長することができました。お客様に土のにおいがすると言われてしまうほどの芋娘だった私を教育することは簡単なことではなかったと思いますが、お金のためなら手段を選ばないミキさんのもとで修業できたことはなによりもの財産になったと思っています。