私は今、都内で派遣社員として、事務の仕事をしている。今の仕事を始めて1年と数ヶ月が経ったが、これまでに私はケーキ屋さん、漫画喫茶、コンタクト販売店、漫画喫茶、クレープ屋さんとさまざまな職場をアルバイトとして転々としてきた。
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元々私は声優になりたくて、高校卒業後地元で専門学校に進学し、卒業後は声優になるために上京した。もちろん夢を追いながら、生きていかなくてはならないので、私はアルバイトをして生計を立てた。声優という夢は簡単に叶うようなものではなくて、私は結局2年前に声優を目指すことを諦めた。今は特にやりたいこともわからず、だけどそれなりに楽しさを覚えながら派遣の仕事をしている。
よく思う。声優を目指していなかったらもっと違う人生になっていたんじゃないか、と。
夢を追っているうちは良かった。フリーターだって、フリーターでいる理由があったから。
だけど、夢を失って、フリーターでいる理由がなくなって、安い給料で都合よく使われていてあげる理由がなくなった時、いざ正社員としてそれなりの待遇で働きたいと望んだところで、高卒で正社員としての経験もなく、スキルや資格もない私は、フリーターでいることしかできない女になっていた。
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私は元々、高校3年生の夏に声優の専門学校に行くと決意する日まで、母親の希望により大学に進学をするつもりでずっと生きていた。
実際高校2年生からは大学進学を目指す特進クラスに籍を置いていたし、受験対策も早めからしていた。
もしもあの時、声優になりたいなんて口に出さずに、心に留めたまま大学に進学していたなら、私は今頃どんな人生を送っていたのだろうか。
何度もそんなことを考えている。
だけど、その度に私は思う。声優を目指していたあの時間があったから、今の私が私としてここにいられるのだ、と。
家族からは頻繁に「声優の専門学校に行かせたのは失敗だった。無駄だった。」と言われる。だけど、私には必要な時間で、必要な経験だったのだ。
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クラスで揉めて、辛くて苦しくて専門学校を辞めようと思ったことがあった。だけどあの時担任に言われた言葉が、私をいつだって踏ん張らせてくれる。あの時必死に考えて、もがいた経験が今の私の考え方を作っている。
仕事で電話での対応を褒められるのだって、社会経験が乏しいのに取引先を不快にさせないメールが打てるのだって、職場の同僚と円満な関係を築けているのだって、全て声優を目指していたあの時間があったからだと私は思ってる。
私は今、将来の不安定な派遣社員で、やりたいことも特にないまま、将来のことなんて何一つ見えていないまま生きている。声優を目指すために作った借金だけが残っていて、ただ必死に今日を生きることしかできていない。
もしも今、過去に戻れるのなら、私は絶対に声優の専門学校には進学しないだろう。だけど、あの夢があったから、夢を追ってたあの日々があったから今の私がいる。そのことを忘れずに、夢を追う中で得た沢山のものを抱えながら、私は今日を必死に生きていこうと思う。