劇的な出会いだったと思う。高校生の私にはあまりに刺激が強かったはずだ。だから、今でもあの光景を、匂いを、感覚を、覚えているのだと思う。そんな私の一目惚れの話を聞いてほしい。

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私が高校生のとき、特別読書が好きだというわけでもないくせに、私は本屋にきていた。理由は思い出せない。なんとなく、本当になんとなく足を運んだのだ。新書は高いから、という理由だけで文庫本コーナーをうろうろとして、買うつもりもないくせに平積みされている本を眺めていた。そこで、私は2つの本を手に取る。どちらも空が印象的な表紙をしていた。たまには、自分で本を買って読んでみてもいいかな、なんて思った私はいわゆるジャケットが気になった2つを比べることにした。

1つは、空に大きなタイトルが書かれている。あらすじも読み、数ページ中身も読んだ。面白そうだと思った。ただ、少しページ数が多かったから読み切れるか自信がなかった。次に、またジャケットが気になった作品を手に取る。あらすじ、帯を読んで舞台が病院であること、主人公が大学生であることがわかった。「ふーん」と思いながらページをめくり、一行目を読んだ。衝撃的な出会いは、一目惚れ。いや、一読惚れだった。

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たった一行のそれがあまりにも惹きつけられて、そのまま何かにとりつかれたようにしてページをめくった。読んで、読んで、読んで、読んで。そういえば、ここが本屋であることを思い出したときには、すでに数十ページを読み終えているところだった。ドクドクとする心臓。あまりにときめく心、それからどうしようもなく惹かれて離れない気持ち。私は手にしていた病院が舞台の文庫本を急いでレジへもっていった。

人生で初めて、自分のお金で小説を買った瞬間だったかもしれない。
あの日、ふらりと寄った本屋さんで偶然出会った本。本屋独特の紙の匂い。それから表紙の鮮やかな青に白い雲と白い建物。裏に書いてあるあらすじにははっきりと病院が舞台だと書かれている。そして、数ページめくってからの、1行目。ああ、今思い返してもたまらない。このとき以降、この本を書いた作者の方含めてたくさんの人の本を読んだ。どの本も素敵だし、一目を気にせず涙を流した本もあった。夢中になって朝を迎えた本もあったし、同人誌という形でも素敵なものはたくさんあった。読み終わったあとに充実感が残る本は多い。

その中で、たった一行。一行だけで、あんなにも動揺した、そして心惹かれた本は今までにない。私が本を読む習慣がついたきっかけの本でもある。こんなにも惹かれるものがあるのかと世界がきらめいたこともしっかりと覚えている。

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そして不思議なのが、一度一目惚れをしたものというのは再び読んでもまた胸をときめかせて仕方がない。高校生のときから何度この本を読んだだろうか。表紙はもうくたくたで、誰かに貸すことなんてできないくらい手に馴染んでいる。

そんな一目惚れ、一行惚れをした私は今、文章を書いている。もともと文章を書くことは好きだったが、「小説」という形で自ら物語を紡ぐようになったのは、確実にこのときからだ。一行惚れは私の人生を変えた。そして小説というのが、誰かの運命を変えるということも知った。一目惚れというのは、それくらい衝撃的で刺激的で、そして一生ものの出会いのことだろう。あのときの胸の高鳴りを私は今でもすぐに思い出すことができる。