夏といえば、あのサウナのような熱さ、海を思い浮かべる。水着を着たり、長袖を切ることを許さない熱さに負けて半袖を着たり。となると女子として気になるのはムダ毛。

私はこの5月、脱毛の契約をした。自分で結んだ契約の中では今までで一番高い契約だ。歴代レコードを更新した私史上の最高月収がきれいに全部吹っ飛ぶくらいの値段だった。

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そんな私は今、半分の期待や楽しみと、もう半分の不安と懸念を抱えている。
プラスの半分は勿論、すべすべの肌になれることへの期待だ。そして、マイナスの半分はサロンへ通う面倒くささ、肌を他人に触られることへの嫌悪、そしてサロンスタッフの不誠実さである。

カウンセリングの予約をした時。
「もし契約となったらお支払いは現金かクレジットカード、医療ローンだとどれをお考えですか?」と聞かれた。
カウンセリング前日に確認の電話がかかってきた時。
「明日、契約するならお支払いは現金かクレジットカード、医療ローンだとどれをお考えですか?」
当日、カウンセリングルームに入ってすぐ、
「本日はありがとうございます。先に伺いたいんですが、契約するならお支払いは現金かクレジットカード、医療ローンだとどれをお考えですか?」
契約を結ぶといった時。
「かしこまりました。では、お支払いは現金かクレジットカード、医療ローンだとどれをお考えですか?」

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電話口のスタッフとカウンセリングを担当した人が同一人物かどうかは分からない。名乗りもしなかったし、たとえされていたとしても覚えてはいないだろう。でも、2回ならまだしも4回も聞くのは流石にどうかと思う。メモするでもなく、共有するでもなく。ただ聞くだけならば何のために聞くのか。聞く必要などないだろう。
3回目に聞かれた時にはもう私の不信感が募っていた。こんな企業を信用していいのか。こんなスタッフを信用できるのか。できるわけない。

でも、私はこのサロンで契約をした。どうせ、どこも似たようなものだから。実は、このサロンでカウンセリングを受ける前に、別のサロンでも説明を受けていた。そこのスタッフは何度も自社の機械で脱毛したというすべすべの腕を見せて、すごくないですかと言い続けた。インターネットの情報と異なる部分があって、そこにどうしても妥協できなかったから契約はできませんと何度もはっきり断ったのに、しつこかった。
「なつめ様のご不安なところがあるなら私の方で解決していきたいんです」
「なつめ様も夏までに綺麗な肌を手に入れたらスタイルがいいので」
「もし料金的なところならなつめ様の負担にならないよう分割についても提案させていただきますし」

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優しさ、親切心、誠実さ、そんな仮面が手に取るようにわかった。何度言ったってダメなんだ。ムリだと言ってるだろう。早く帰らせてくれ。
自分が営業職をやっているからこそ余計に嫌悪感が強かった。彼女らがやっていることは会社でタブーだと言われていることばかりだった。

そもそもアイスブレイクがなってない。何度も同じことを聞いてしかもそれに気づけていない。アウトが出ても押しさえすれば取れると思っている。その時点で営業マンとしては負けなんだ。
書類を差し出し、能面のようなのっぺりとした気味の悪い顔で微笑むスタッフ。
培ってきた営業スマイルを浮かべ、私はサインをした。