鏡を見たら、容姿が変わっていた。眉毛がなくなり、まつげがなくなり、頭髪はまるで落ち武者のようになっていた。私の大事な毛たちはどこに行ったんだ!!大量の毛をまさか自分で抜いているなんて思いもしないだろう。

◎          ◎

あなたは抜毛癖という名を聞いたことあるだろうか?美容以外で自分の毛を抜いたり、引っ張ったりしてしまう精神障害の一つである。発症時期は思春期が多い。ストレスが大きく関わっている。

私の毛がなくなっているのに初めて気が付いたのは、9歳の時だった。学校の集合写真を見たとき、違和感を覚えた。何かが違う。みんなにあって私のはなくなっていた。少し前まであったものなのに。

そのあと、母に連れられ病院に行ったのを覚えている。それまで私が知っていた病院ではなく、注射も聴診器も使わず、‘‘学校はどうか‘‘とか‘‘家族は、友達はどうか‘‘など自分のことをひたすら聞かれた。漠然とした不安の中、母の心配そうな目と看護師さんたちの声色から、なんとなくやってはいけないことをしてしまったのだと思った。

やめなくては。そう思ってしまったのが、すべての始まりだった。抜毛癖には無意識にやってしまう人と、抜く衝動を抑えられない人がいるみたいだが私の場合初めは無意識だった。ただ抜いてしまった髪を、ハゲている場所を見つけるたびに、隠そう。やっては駄目だ。と思えば思うほどやめられない沼にはまっていった。抜きにくいように手袋をつけてみたり、人差し指と親指をテープで縛ってみたりといろいろ試してみたが、逆に意識してしまいどれも効果は薄かった。

結局、抜いてしまった毛に気が付いたら捨てる、ハゲてしまったところを残っている毛で編み込み等して隠すなど言う証拠隠滅作戦を実行。小学生の私ができた精一杯だった。髪の毛はどんどん減って、中学ではウィッグなしで外に出られなくなった。

◎          ◎

時は過ぎ高校生になる時、家の事情で実家を出ることなった。昼間働き、夕方からは定時制高校に行くというなかなかハードな生活を送っていたのだが、この頃から前より毛を抜く頻度が少し減っていることに気が付いた。

この癖が始まって約8年。やめるべきというプレッシャーがさらにストレスに拍車をかけていたことにようやく気が付くのだった。大切なのは気にしないこと。家の壁に貼ってあった‘‘頭を触らない!!‘‘という大きな文字を捨て、一日に3回やっていた床掃除を1回にしてみた。その成果あってか、髪の毛が増えウィッグを外せるまでになった。

そしてこの後、なおるのは早かった…と言いたいところだが22歳になった今でもたまにやってしまう。もちろん頻度はかなり減った上に、やったとしても10円はげ程度だが、抜いてしまったことに気がついた後の罪悪感、後悔は半端ない。気にしいな性格も相まって、外出時は帽子が手放せなくなる。エスカレーターの下りに乗るときは後頭部がすごく気になるし、座ってるときに後ろから話しかけられるとハゲが見えてないか一回頭をなでる癖もやめられない。

何度も自問自答する。どうしてやってしまうのか。どうしてやめられないのか。他人の意見を聞くことができれば解決できるかもしれない。そんな考えがふと過ぎるが、見栄が邪魔をする。結果、癖だから仕方ないという諦めにたどり着く。きっとこれから先も誰かに言うことはないだろうし、言えないだろう。だからこそこの場を借りて、綴らさせてもらう。

◎          ◎

しかし、こんな私にも夢がある。美容院に行くことだ。まばらにある生えかけの短い毛や、ハゲをどういえばいいのか。自分で抜いてしまってなんて、恥ずかしくて言えない。そんな考えから私は髪を切ってもらったことがない。美容師さんからすれば、様々なお客さんの一人にすぎないのは分かっているが、万が一馬鹿にされたら…というマイナス思考が予約電話の発信ボタンを押させてくれない。この癖をいつかやめられる日が来るだろうか?いつかそんな時が来たら、目一杯のおしゃれをし、美容院で素敵な髪にしてもらうのだ。