クリスマスは世のデートの中でもより特別になりやすい日だと思う。無論私もその中のひとりであった。昨年のクリスマス。露出した部分から固まってしまうのではないかと言うと大袈裟だが、冬らしい寒さにつつまれて、私は11歳年上の彼とクリスマスを迎えた。生まれてこの方青森県を出たことがなかった私にとって、上京して初めてのクリスマスは素敵なものになると信じていた。

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クリスマスに行く場所は、彼が提案してくれた。千葉県にあるのに東京や外国の名がつくイルミネーションだ。チーバくんで言えばお腹の辺りに位置する。そこに行くにはバスに乗らなければならなく、昼過ぎに2人でバス停へと向かった。イルミネーションの人気はすごく、バスの並びは夢の国の様だった。時間通り来たバスに乗り、ちょうど日が沈む頃に着きそうだった。しかし、窓から見る景色は静止画で、バスはとてつもない渋滞に巻き込まれていた。車内は暖房で暑くなっていたが、乗客のテンションは季節さながらであり、太陽だけが足早に沈んでいった。そのうち乗客の1組が途中下車を希望し、結局車内全員が降りて歩くこととなった。バスの運転手を渋滞に置き去りにし、申し訳なさを抱えながらイルミネーションまでの長い道のりを乗客達と共に歩いた。やっとの思いでついたが、もう閉園まで1時間半しかなかった。しかし、そこは本当に夢の国であった。目に映る全てが輝き、美しい光景は現実を忘れさせた。ここまでの苦労も閉園時間も忘れるほどにただただ綺麗であった。

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そう、時間を忘れたのだ。

あっという間に閉園の時間となり、私たちは最終のバスを逃してしまった。とは言えまだ20時。他のバスも電車もあるだろうと油断していた。しかし、ここは東京ではないのだ。バス停はどれも終わっており、1番近くの駅までは1時間ほど歩かなければならない。他の来客達はみな車で来ており、私達2人だけが駅までの道のりを歩いて帰った。イルミネーションを離れるとそこは田舎。電灯も少なく寒くて暗い。人通りも少なく、サスペンスを感じるには十分過ぎるほどであった。私は彼の腕にしがみつき、2人で気が遠くなるほど暗い道のりを歩いていった。怖がりの私に彼は時おりおどかしたり、逆に笑わせたりと絶え間なく話しかけてくれた。この状況に対するストレスから彼に八つ当たりする事もあったが、彼はやさしく話し続けた。

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やっとの思いで駅に着いた時には涙が込み上げてきた。ドラマでしか無いような状況を乗り切った事と、やっと着いた駅がとても古くて電車が来ると思えない不安、どちらの涙かわからなかった。電車がくるまでも長く時間を要し、その間彼はずっと私の手を握ってくれていた。古い駅のベンチに流れる時間は不思議とあたたかく、彼の顔を見るともっとあたたかくなった。何を話したかはもう覚えていないが、確かな幸せを感じていたと記憶している。気づくと電車が来ていて、私達は無事に家に帰ることができた。

今後あんな思いは二度とごめんだが、私の記憶に鮮明に残るのは、イルミネーションの綺麗さではなかった。暗い駅中で、私の手を握る彼の優しさが、そのあたたかさが眩しかった。
暗くてまぶしいクリスマスだった。