さようなら、私の一部…。

自傷行為は、私には縁のないものだと思っていた。
もちろん、その行為自体は知っていた。
有名な漫画の主人公がするそれは、ひどく痛々しく、私を憂鬱な気分にさせた。 

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それは全く理解のない人からすれば、気味悪く、忌々しいものだろう。
健康で、順風満帆で、何一つ不自由なく過ごしてきた人ならそんな感情も抱くのかもしれない。

けれど私は、そうではなかった。
誰にも言えない私の癖、それは、まさに自傷行為である。

自傷行為と一言で言っても、きっと誰もが想像するであろうリストカットなどではない。
さすがの私も実際に生々しい血を見るのは心が安らぐことはない。

それは、約2年前、二人目の子を出産してから始まった。最初はちょっと頭皮がかゆいなくらいの感覚だった。産後のストレスかもしれないし、もしかしたら妊娠出産を経ていつも使っているシャンプーが肌に合わなくなったのかもしれない。
軽く考えていたが、それが治まることはなかった。

気付けばほぼ一日中、頭皮のかさぶたをはがしていた。

最初は痛かった。シャワーをするのが苦痛だった。
それはもちろん、かさぶたを半ばひっかくようにしてはがされた頭皮は相当なダメージを負っており、お湯が当たるたびに傷口にしみるのだ。

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すぐに病院に行けば良かったのだが、病院に行ったところでただその場しのぎの薬を処方されるだけだと考え、結局また繰り返してしまうなら根本的な解決にはならないとあきらめてしまっていた。また、休みなしの二人の子の育児、家事、元夫との関係、次第に仕事にも追われ、忙しさを理由に受信を後回しにしていた。

そうしているうちに、それはやがて精神的なものになり少しイライラしたりストレスを感じると自分の意識とは関係なく、頭皮のかさぶたをはがしていた。

痛い、だけど気持ちいい……。

そんな風に感じてしまうまで、症状は悪化していた。
皮膚をこんなに傷つけて、きっと痕が残ってしまうし、またやってしまったと自分を責めることも少なくなかった。
相変わらずシャワーは痛いし、不潔だし、はがれたかさぶたが服に落ちるから黒い服は着れないし、良いことなんて何一つない。

そうしてろくに向き合うこともせず、約半年間ずっとそれは続いた。

その間に病院には行ってみた。
皮膚科では薬を処方され、ひどくなるようならまた受診してとのことだった。
心療内科にも行った。そこでも様子見だった。次第に通うのがめんどくさくなり、長くは続かなかった。
カウンセリングにも行ったが、何故か肝心の頭皮のかさぶたをはがす癖のことを話していなかった。
恥ずかしいとか、敢えてとかではなく、ただ単に話すことを忘れていただけだ。

この癖について、調べてもみた。
あまり詳しいことは書かれていなかったが、これは立派な自傷行為なのだそうだ。
私は少なからずそれにショックを受けた。 

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しかし、今年の春、一時期ではあったが頭皮のかさぶたをはがす癖は治まっていた。
ふと全く頭皮を触っていないことに気付いたのだ。
確かにその時は、症状が出始めた頃に比べて少しストレスは軽減されていたかもしれない。
膨大なエネルギーを消費した元夫との離婚が成立し、子ども達も元気に育ってくれており、仕事も少しずつ慣れてきていた。

なんだ、このまま治療しなくても自然に治るんだ……。
そうはっきり思ったことを覚えている。

しかし現在、症状は再発している。
仕事が再び忙しくなり、多大なストレスを受け続けている。
半年ほど関係が続いている男性とのことも、思い悩むことが多くなった。

このままでは、いつか知らない内に倒れてしまうかもしれない……。
一人の母親として、それ以前に一人の人間として、もう少し自分を愛して優しくしてあげる良いきっかけなのかもしれない。