笑顔。私が一番苦手な表情。
コスメのパッケージや雑誌、テレビのCM。
白い歯を見せながら、笑顔でいる女優さんやモデルさん。
目にするたびに、羨ましくてため息が出る。

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私には、こんなに美しい笑顔はできない。
「笑っていた方が可愛い」なんて言われるけれど、きれいな笑顔ができないから見せられない。
「なんで自然にできないんだろう」と、割と真面目に悩んでいる。
今の家や実家でテレビや動画を観ているときは、あんなに大笑いするのに。
近所の知り合いが飼っていた犬を毎日触らせてもらっていたときは、あんなに心から幸せな笑顔でいたのに。
昔いじめに遭ったときのトラウマを、まだ引きずっているのもあるのかもしれない。
あのことがあったせいで、私の中で美への執着が育っていった。
一時期は「全身美容整形したい」なんて考えていたこともあった。
つらいときは口をへの字にして、奥歯で食いしばるくせ癖があるので、私の表情筋も大層お疲れだろうと思う。
美容エステでフェイスマッサージをしてもらったら「お顔が大分凝っていますね」と言われてしまった。
私の過去は、本当に負の遺産でしかない。

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友だちと一緒に撮る写真。
もちろん、笑顔は上手く作れない。
無理やり作ろうとしているせいか、顔が引きつって見える。
心なしか、すごく老けているような気がして、目を逸らしたくなる。
レンズを通すと、実物より10倍は醜く見える。
だから、本当はあまり撮りたくない。
どうしても撮るときは、加工という素晴らしい技術を使わせてもらっている。
さすがに歯並びまでは加工できないから、口を閉じたまま口角をあげて"笑顔風"で撮影。
それから、ほうれい線を加工で消せばほぼ完璧。
一方で、私の友だちはそんなことをしなくてもきれいな笑顔。
歯並びだって私よりはるかにいい。
だから、友だちの方が可愛く見えるし、周りもそう答える。
「人は皆、平等」なんて嘘。
私だけ、昔からずっと不公平。
周りから私だけ浮いて、おいてけぼり。
いつも「前世で悪いことをしたからなのか」と、気分はだだ下がり。

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笑顔という表情をあまり出せないせいで、社会人になってから少し嫌な気持ちになったことがあった。
あのときは、私の友人と私が気になっている人と3人で会っていた。
美味しい料理を食べながら、一緒に楽しく話していた。
すると、彼が友人を見て言った。
「自然な笑顔が素敵だよね」
気になっている人とは、私の方が知り合って長かった。
彼と話していて私はよく笑っていたし、頑張って笑顔を作っていたと思う。
でも、そんな言葉をかけてもらったことは一度もなかった。
「やっぱり、私の笑顔は美しくないんだ」と、すごく悲しくなったのを覚えている。
それと同時に、彼への気持ちも一気になくなってしまった。
「内面だけじゃダメなんだ」と改めて感じた。

「頑張って笑顔にならなきゃ」と、無理やり笑顔を作る癖。
笑うことは楽しいのに、なぜこんなにつらいんだろう。
マスク生活のおかげで、今は目だけで笑っておけばいいので楽。
だけど、マスクをする人がゼロに戻ったそのときのことを考えると、今のままではダメだと思う。
誰の目も気にせず、笑いたいときに笑えるようになりたい。