「あなたにはロールモデルとなる方や尊敬する方はいらっしゃいますか?」
大学受験や就職活動時に何度も訊かれたこの質問、今もなおちゃんと答えられない。

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アラサー女性、部署内の人間関係にうんざりして、次の仕事先が見つかる前に退職。
現在有給休暇消化中。
キャリアコンサルタントと一緒に次の仕事先を探しているが、
「弊社の社風とは合わないと思われたため・・・」と次々と断られた。

段々仕事が見つからないことに焦りを感じ、「なんでもいいです。なんか良い場所ありませんか?」とコンサルタントに投げてしまったところ、

「『転職の軸』がしっかりしていないと、いいところは見つかりませんよ。一度条件を見直しましょう。改めて今後どのように働きたい、などご希望ありますか?雇用条件だけでなく、例えば、ロールモデルとなる方とかいて、これを目指したいとか…」

一番苦手な質問だ。

確かに焦りを感じ、日に日に自分の軸がぶれていったことは認める。しかしその軸の元となることを訊かれた際、どのように説明すればよいかで迷う。
正直、現在ロールモデルはいない。そのため自分の軸がブレブレの状態である。

しかし数年前まではいた。少し年上の女性、本当にかっこよかった。
だがある理由でこの方を目指すことをやめてしまった。その話をさせてほしい。

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当時20代前半、技術職で毎日昼に出社し夜遅く帰宅。休みは平日。
生活リズムの差からか、周りは趣味や旅行、結婚など華々しい世界を生きている一方で自分はそれを通勤中に見てうつろな目をし、イヤホンをつけて自分の世界に入る人として生きていた。

「あなたに紹介したい人がいる、ぜひ会ってみようよ!」

知人が主催するバーベキューに参加し、そこで仲良くなった人がいた。
何度か食事し、ある日急に誘われた。
当時新しい人と出会う機会がなかったため、「こんな感じで友達が増えていくのか」と興味津々だった。

その方は年上の女性、小さい子どももいてバリバリ働くキャリアウーマンとのこと。
オフィス街のカフェで待ち合わせしたところ、遠くからでも分かるくらい美しい女性が小走りでやってきた。自分がこれまで生きてきた中で関わったことのないタイプの方だったため、女神かと思った。

すらっとした姿勢、毎日サロンに行っているのかと思わせるほどの髪質と肌、高価なブランドアクセサリー…。
話してみると気さくで、自分の直近の話ややりたかったことも受け入れ、

「強いエネルギーがあれば絶対できるよ!一緒に最高の人生を目指さない?」

と励ましてくれた。

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「この方になれたら、自分も華々しい世界で生きることができる…!」
それから自分はその女性になろうとした。
女性から推薦された本を読む、細かい所作をその女性に近づけようとする、できそうなことに挑戦した。

日々その女性の真似をするうちに、自分でもわかるくらい表情が明るくなり、つまらないと感じた仕事にも情熱をもって取り組めた気がした。変わりつつある自分が楽しかった記憶がある。
しかしその方を知っていくうちに、ある事実を知る。
その女性は「勧誘」ビジネスをしている方で、検索するとネガティブな情報がいくつもヒットした。

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「嘘だ」
これまで出会った中で両親よりも尊敬した女性だった。しかしそのような仕事をしていたことにショックし、泣いた。
その事実を知ってすぐに、「申し訳ないのですが、もうあなたにはお会いしません」と連絡した。夢のような数か月間だった。

それ以後、ロールモデルを決めて生活することはなくなった。
しかし彼女から学んだことの中には正しいこともあったので、前職でも応用していた。
そしてなぜかうまくいってしまうことに戸惑った。

確かにその女性には憧れた、しかし彼女の仕事を許すことは今もできない。