私は一目惚れをしたことがない。20数年間、恋愛感情すら分からなかった人間である。だから、一目惚れをするはずがないのだ。
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でも、「一目惚れをしました」とは言われたことがある。だけど私の場合、その言葉がどこか変なように思えた。そもそも私は人から好意を向けられることが苦手ではあるものの、あの大学生が言った“一目惚れ”という言葉には嫌悪感ではないが違和感があったように思う。
“一目惚れ”をしたと言っていた大学生とは自動車学校で出会った。それ以前は名前も顔も知らないし、見たこともない。私は自分の都合のよい時間帯に講習や実習を入れていたので、その大学生と会ったのは告白された複数実習の日と合同講習のときだけである。
その大学生とはじめて会った実習の日は他の人の運転で教習所内を運転してみようといった内容だったように思う。先生以外の人を車に乗せるのは初めてだったので私は緊張でカチカチになっていた。ヒィヒィ言いながら運転していたこと以外、私はほとんど覚えていない。
でも最初に運転したのが例の大学生で、その次に運転したのが私だったような気がする。その大学生が運転し終わって、私に順番が変わるとき「頑張ってね!」と言われて「ありがとう!頑張ります!」と言ったのが初めての会話だったような気がする。
ただ、全て“気がする”だけでどのようなことが起こったのかほとんど覚えていないのだ。ただ、運転の後に「一目惚れをした」と言われ、頭の中がハテナでいっぱいになったことは覚えている。
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「一目惚れをした」と言われるほど、私がなにかした覚えはないし、「一目惚れなんて少女漫画の世界でしょ」と高をくくっていた私はこの言葉を聞いたときポカーンとしてしまった。
また、このエッセイ以外にも書いたことがあるように、私は他者から好意を抱かれることが苦手である(理由は分からないが…)。だから「一目惚れをした」と言われる意味が全く分からなかった。皆目見当がつかなかった。わけがわからなくて頭がクラクラした。それほどの衝撃であった。
「一目惚れをした」という言葉だけでも展開がよくわからないのに、その大学生は「ラインを交換しよ!」とも言ってきた。こういうことに耐性がない私はどうしたら良いのか分からず、言われるがままラインを交換してしまった。私は警戒心がなさすぎる人間である。
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ラインを交換したあと、その大学生から連絡が来た。
「今度、どこかに行かない?」
「君のこと、もっと知りたいなー」
よくわからないことを言ってくる相手に何を言っていいのか分からず、私は適当な相槌を売っていたような気がする。
そしてそんなに話してもいないのにとんでもない言葉が飛んできた。
「今度、うちで遊ばない?」
この言葉で私は確信した。こいつは遊びで「一目惚れをした」という言葉を使い、女の子を食い物にしようとしているのではないかと。
いきなり、「家で遊ばない?」というのは体目当てに決まっている(女のセンサーが働いただけではあるが…)。その後、私は「大丈夫ですー!学校があるのでこれで!」と適当なことを言って、この人をブロックしたような気がする。
その後、合同講習でその大学生とあったことがあったものの一言も話さなかった。
「やっぱり、食えそうな女子に話しかけてるんだな」という印象だった。
一目惚れという言葉にキラキラな印象を持っていた私にとっては、衝撃が大きい出来事であった。