一目惚れに色があるなら、どんな色だろう。

恋愛小説の表紙に、恋みくじのパワーストーン。「恋コスメ」と呼ばれるリップやネイル。
世の中に存在している、恋愛に関する何かはだいたいがピンク色をしている。でもピンク色にも色々ある。一口食べたらほっぺが落ちそうな、オレンジがかったサーモンピンク。バレリーナのチュチュやトウシューズを連想させる、甘く優美なローズピンク。まっさらな幸せを詰め込んだ赤ちゃん用品のような、健やかで柔らかなベビーピンク。
その中で「一目惚れ」を表すのにふさわしいのは、いったいどんなピンク色だろうか。私としては、稲妻の如くビビビと走る瞬間的なときめきを表すのには、青味が強くて鮮やかなピンク色、いわゆるショッキングピンクというやつがぴったりな気がする。
そのショッキングピンクに、一目惚れをしたことがある。今となっては遠い日のこと、大学1年生だった時のことだ。

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高校を卒業する少し前からアルバイトを始めた。自分の自由になるお金が増えると、私の頭の中を一つの考えが占めるようになる。
デパコスリップを買いたい…!
以前「素顔の私に思うこと」というテーマで投稿したエッセイでも触れたのだが、当時の私は筋金入りの化粧品オタクだった。ドラッグストアとは全く違う、高級感漂うデパートの化粧品売り場は、当時の私にとって何周しても全く飽きないワンダーランド。中でも心惹かれたのがリップだった。ブランドの世界観をそのまま形にしたような美しいパッケージの中に、様々な明度と彩度の赤やオレンジを閉じ込めた、まるで宝石のようなリップたち。
いつかデパコスリップでメイクしてみたい!
その夢は、アルバイトを始めたことにより、以前より手の届くものになっていた。

その日も、私は一人でデパートのコスメ売り場をぶらぶらしていた。バイトを始めたとは言え、18歳の大学生の視点から見ると、「高ッ…!」と白目を剥いてゼロの数を数えたくなるような価格のコスメばかり。周りの綺麗なOLさんやマダムたちに引け目を感じながら、特に当てもなく彷徨っていた。そんな私の視界に、あるブランドの、1本のリップが飛び込んできた。

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瞬間、私のハートは射貫かれた。

花束をかたどった、きらきらと輝く銀色のケース。その中に鎮座するのは、大粒のラメをたっぷりと含んだ、目にも鮮やかなショッキングピンク。
その美しいリップに、私は一目惚れをしてしまったのだ。

販売員のお姉さんには、「これ、結構派手めの色なんですけど、本当に買いますか?」と聞かれたのだが、恋は盲目。私は首を縦に振り、そのリップをお買い上げした。
意気揚々と帰宅し、胸を躍らせながらリップを唇に塗っていく。しかし、鏡の中の自分の顔を見て、私の心はすぐに曇っていった。
あれ、何か違う…。
何だろう。色そのものは本当に素敵なリップなのに、明らかに自分の顔から浮いているのだ。唇だけ浮き上がって見える。
何でこんなに似合わないんだ?
それからは、そのリップを塗る時はなるべく薄く薄く塗るようになった。
私にショッキングピンクが絶望的に似合わない理由が分かったのは、それから3年後のことだ。

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大学4年の時、友達と二人でパーソナルカラー診断へ行った。念のため説明しておくと、パーソナルカラーというのは、「一人一人の髪や肌、瞳の色から診断する、その人を一番生き生きと魅せてくれる色」のことだ。黄味の強い色が似合うイエローベース、通称イエベ、青味の強い色が似合うブルーベース、通称ブルべの2種類に分類される。このどちらかだったら、私は絶対にイエベだ。一目惚れしたあのリップがあれほど似合わなかったということは、とにもかくにも絶対にイエベだ。と謎の自信を漲らせて診断に赴いた。
パーソナルカラー診断は、イメージコンサルタントに色とりどりのドレープを顔の近くに置いてもらうことで、自分に一番似合う色を探していく。「金と銀だったら、金の方が顔が明るく見えますね」「黄味の強い緑と、青味の強い緑だったら、前者の方が肌が綺麗に見えますね」…「お客さんはイエベです!」という感じだ。
イエベしか勝たん!みたいなテンションで赴いた私だが、自分の顔の傍に入れ替わり立ち替わりどんどん置かれていくドレープたちを見て、おや?と思った。青味の強い色のドレープを置かれた方が、明らかに顔色が明るく見えるのが素人目にも分かる。

あれ、私ひょっとしてブルべなのでは…?

 最終的に、ブルべの中でも明るく淡い色が似合う「ブルべ夏」だと診断された。さらにイメージコンサルタントによると、私のパーソナルカラーはそのブルべ夏の中でもスモーキーで柔らかい色が似合う、「ミューテッドサマー」に当てはまるらしい。そりゃー青味の強い色とは言え、あの鮮やかなショッキングピンクのリップが似合わないわけだ…。
こうして、私の一目惚れは実を結ばないまま終わった。

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でも、私は今でも、ショッキングピンクを諦めきれない。ファッション誌に、ショーウィンドウにあの色を認めると、18歳のあの日のようにもう一度一目惚れをしそうになってしまう自分がいる。
でも、「ショッキング」という概念とは正反対の、くすみ色が似合うと言われた私があの魅惑的な色を纏うには、一体どうすれば良いのだろう。ネイルをする時、他の9本の指は薄ピンクにして1本だけあの色に染めるのはどうだろうか。服やメイクが難しくても、文房具は?ノートやペンという形でなら、あの華やかな色は私の生活の中に溶け込んでくれるかもしれない。
ほらね、全然諦めきれていないのである。22歳の社会人になった私は、今日もあの色と両想いになることを夢見て、届かない手を伸ばしている。