電車に乗っている時や、お店をぶらぶらしている時。ついつい、周りの女性の手元に注目してしまう癖がある。私が見ているのは彼女たちの指先、ネイルである。
あのお姉さんのグリーンの単色ネイル、よく見るとラメ入りなのが可愛いな。でも私、ブルベだからあの色は似合わないかも。あそこの女の子のネイルも、ピンクの色合いがすごくお洒落…。
私のインスタには、色もデザインも様々な、美しいネイルたちの投稿が大量に保存されている。

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私は今までの人生で一度も、ネイルサロンという場所に行ったことがない。だいたいいつも、自分でピンクやベージュなどの無難な色のマニキュアを塗っている。1度くらいはネイルサロンで綺麗なネイルをやってもらいたいと前から思っていて、「2023年やりたいことリスト」には「ネイルサロンでネイルしてもらうこと」と書いた。「大学の卒業式こそ、バチバチに決めた可愛いネイルで出よう!」と思って、インスタでネイルのデザインを大量に漁ったりもした。今、私のインスタに保存されているネイルの投稿は、その時に集めたものである。しかし、「いやーお金かかるしな…」「オフするのにまたサロン行かないといけないしな…」という感じで結局、卒業式にも自分でマニキュアを塗った手で出た。我ながら思う。この人、ネイル行く気ないでしょ…。
そんな私が、「今年の夏こそネイルするんだ!!」と決心したきっかけは、就職。この春社会人になったのだが、仕事柄あまり華美な格好はできず、いわゆるオフィスカジュアルにナチュラルメイクに学生時代と変わらない黒髪、そして薄ピンクのセルフネイルという格好で働いている。キーボードを打つ自分の指先を見て思う。この爪×10、めっちゃギラッギラにカラフルにしたいんだが!!やっぱり学生のうちに思いっきりネイルしときゃよかったな!!

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かといって、明日からいきなりモリモリ&ゴテゴテネイルで出勤できるわけではないのが現実である。せっかく綺麗にネイルしてもらうんなら何日かまとめて楽しみたい。土日休みの2日間だけでは物足りない。
それで私は決めたのだ。記念すべき社会人初の夏休みこそ、プロにやってもらった可愛いネイルで過ごそうと!

とは言っても、夏休みまではまだまだ時間があるので、それまで私は「可愛いネイルをしても浮かない手」を目指してハンドケアを日々頑張っている。いいにおいのハンドクリームを毎日塗るとか、冬でもないのに手袋をするとか、そこまでは極めていない。私が気をつけているのは、紫外線対策だ。
手の紫外線対策というものは、意外と疎かになりがちである。顔と首と耳の後ろには、毎朝きちんと日焼け止めを塗っているのだが、手は「まだトイレ行ったりするかもしれないから、家を出る直前でいいや」っていう感じで後回しにして、結局塗り忘れたまま家を出ていることが時たまある。もう一つたまにサボるのが日傘である。「何か今日は傘開くのめんどくさい」「すぐ目的地に着くし、差さなくていいでしょ」という感じで、日傘を鞄に入れたままにしたり、閉じたまま手に持ったりして差さないことが時々ある。こういうのが積もりに積もって、いつか目に見える形で出てくるんだろうな…。
でも、この夏はいつもの夏とは違う。バッチバチに決めたネイルをより素敵に魅せるために、手元の皮膚を紫外線のダメージから守りたい。というわけで、最近は以前より日焼け止めをこまめに塗って、日傘も極力差して頑張っている。

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ところで、肝心のネイルをどんなデザインでお願いするかは、まだ何も決めていない。一時はヴィランみたいな黒一色のネイルに憧れていたが、社会人初の夏休みにふさわしいのはもっと明るい色の気がする。かといって真っ黄色やオレンジ色は、ブルべ夏の私には絶望的に似合わないだろう。青や紫は服で選びがちな色だから、もう少し冒険してみたい。
最近気になっているのはピンクだ。いつも塗っているネイルファンデーションみたいな、大人しめのピンクではない。 私が気になっているのは、大粒のラメをがっつり含んだ、とにかくキラッキラ、ギラッギラしている派手派手ピンク。
物心ついた頃から寒色が好きで、「泉海ちゃんはピンクと水色、どっちが好き?」と聞かれれば「みずいろがすき!!!」と元気いっぱい答えるような女児だったのだが、何故かここ最近になって、私の中でかつてないほどのピンクブームが巻き起こっている。洋服屋のブラウスにパティスリーのケーキ、文房具店のノート、街を歩いていて私をときめかせるものは大体ピンク色だ。
手の爪みたいに、日常的に視界に入るところをキラキラのピンクにできたら、きっと楽しいだろうな。
そんなことを思いながら、薄ピンクのネイルファンデーションを塗り塗りしている。

黒髪にナチュラルメイク、オフィスカジュアルな服装。薄ピンク色に塗った指先で日傘をしっかり差し、日焼け止めをたっぷりと塗って、今日も私は仕事へ行く。

頭上には、さんさんと輝く太陽。
きっと、夏は、あと少し。