美しくメイクしたモデルさんが優雅に微笑む、新作コスメのポスター。
華やかな衣装をまとい、舞台で堂々と演技をする、ミュージカル俳優。
いわゆる「表舞台」の業界でキラキラと輝く人々の姿を見て、今日も私は、誰にも言えない「ある癖」を発動させてしまう。

私だったら、どんな風に表現するかな?

子どもの頃から、習い事や部活などで音楽、舞台系の団体に入ることが多く、いわゆる発表会的な場に出ることが多々あった。ここ何年かはそういった活動はしていないが、代わりに大学のゼミのプレゼンをガチったり、エッセイを書いて「かがみよかがみ」に応募したりなど、異なる形にはなるが「表現活動」そのものは続けている。

「泉海のプレゼンすごく面白かった!」「エッセイ採用のご連絡です」…その言葉の一つ一つは、純粋にとても嬉しい。

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それでも時々、自分とは違う「表現活動」__ダンス、ミュージカル、撮影モデル等、いわゆる「表舞台」と呼ばれる分野__に打ち込んでいる友人たちを見て羨ましくなることがある。何だか、自分がやっていることよりも、華やかに、格好良く見えてしまって。私も音楽をやっていた時期はあったけれど、下手の横好きというやつだろうか、ただ好きなだけで、特に巧くなることもないまま終わってしまった。
そんなコンプレックスからだろうか。モデルのポスターにミュージカルの舞台、そういったものを見ると、ついつい妄想を繰り広げてしまう。
この新作のネイル、もし自分がこのモデルだったらどういう風に魅せるか。
このモデルさんのポーズも可愛いけど、私だったら別のポーズがいいな。
頭の中では、いっぱしにヘアセットとメイクをしてもらって別人のように仕上がった自分が、ネイルポリッシュの小瓶を手に、キメ顔でポーズを取っている。こんなことを日常的に考えているなんて、とても人には言えない(ここに書いている時点で言っているのだが)。

最近また新たに、「自分だったらどう表現するか」の材料を開拓してしまった。美術館の音声ガイドだ。美術館へ行くことは元々好きだったのだけれど、この前初めて音声ガイドをつけてみたら世界が変わった。音声ガイドをつけるのとつけないのとでは、入手できる情報の量も、世界観に入り込める度合いも、天と地ほど違うことを痛感した。
もしも、自分の好きなあの画家の展示会で音声ガイドをやれたら、最高だろうなあ。
私の頭の中では、推しの画家の作風に合わせた衣装を纏った自分が、絵の説明を滔々と語っている。
最も、音声ガイドをできるような滑舌の良さははなから持ち合わせていないのだけれどね…。

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この前、友人のインスタのストーリーを見て思わず「うっ」となったことがあった。
”レッスン中に誕生日サプライズをしてもらいました!幸せすぎてどうしよう”
音楽室のような場所で、沢山の人々に囲まれてお祝いされている友人の写真。
その友人はアマチュアの劇団に入っているのだが、毎日毎日仕事終わりにレッスンに通っているという驚異的な体力と愛の持ち主だ。歌や踊りができるのはもちろん、昔から人一倍しっかりしている人なので、運営側にも携わっているらしい。
劇団の中心人物、といういかにも花形のポジションにいる彼女。それに引き換え自分はどうだろう。彼女が大人数で劇団のレッスンにキラキラと打ち込んでいる「退勤後」、私は本屋か図書館へ行って、夜は一人で本を読んだり、エッセイを書いたりしている。
そして、舞台役者という、彼女にとっては日常の一部である華やかな世界に、私は「誰にも言えない癖」である妄想でしか入りきることができないのだ。ああ、自分で書いていて空しくなってきた。

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でも同時に、理解もしている。きっと彼女にとっての劇団と同じくらい、私にとっては大切なのだ。
本屋で本棚を眺めていて、ときめく装丁とタイトルの一冊と目が合った瞬間が。
少しだけ開けた窓から入ってくる風を感じながら、小説の中にワープしている夜が。
毎日毎日仕事終わりにレッスンへ行き、通勤電車でも職場の昼休みでも劇団関係の作業をこなし、仕事のない休みの日にも稽古場へと通う彼女。
キラキラしていて、格好良いとは思う。でも、自分も同じことをしたいとは思わないし、たぶんできない。彼女と同じ生活をしたら、ゆっくり読書したり文章を書いたりする時間は明らかに激減すると、頭のどこかで冷静に理解しているのだ。
キラキラも花形も舞台役者も、自己完結する妄想の中だけで私は良いや。
たぶん彼女も彼女で、表に出さないだけで大変な思いもしているだろう。
まぶしさに目が潰れそうな彼女のストーリーをそっと閉じ、大好きな出版社のアカウントを覗きに行く。

美しくメイクしたモデルさんが優雅に微笑む、新作コスメのポスター。
華やかな衣装をまとい、舞台で堂々と演技をする、ミュージカル俳優。
いわゆる「表舞台」の業界でキラキラと輝く人々の姿を見て、今日も私は、誰にも言えない「ある癖」を発動させてしまう。

私だったら、どんな風に表現するかな?