「二重の幅がきれいだね」
「産後半年?細いね!」
容姿に対してプラスの言葉をかけられる機会が以前よりは増えた。
でも。
「出目金」
「はるはずんぐりむっくりだから」
「肌、おばあちゃんみたい」
学生時代に言われてきた容姿に対する呪いの数々。
言った本人は「見たまま、本当のこと」を言っただけ。
彼らにとってはその程度の一言を28歳になった今でも私は覚えている。
◎ ◎
小さいころから見た目で馬鹿にされることが多かった。
私は目と目の間、鼻の付け根が低く横から見ると目が飛び出ているように見える。
小学校高学年になってからはほほにニキビができ初め、できたニキビはクレーター状の痕
になり消えなくなった。
父親に似て背が高く肩幅が広いから、ごついし太って見える。
お調子者の男子生徒からは「デカブツ」、高学年にもなれば「肌汚い」と陰口を言われた。
泣き虫で言い返せない性格なも災いして言われたい放題。
朝、鏡を見るたびに悲しくなる。
自分はデブでブスでどうしようもないんだ。
鏡を見るたびに嫌な思いをしていたのに、自宅にはさらに毒を浴びせる親がいた。
「ニキビができるのは顔を洗っていないせい」「肩がゴツいのは食べすぎのせい」と的外れな原因を述べてくる。
◎ ◎
もし現在進行形で悩んでいる人がいたら伝えたい。
顔を洗っていてもニキビはできる時はできるし、骨格は食べた量で変化しない。
悩みに悩んでいた私は、美容整形に密かに憧れていった。
『美容整形を繰り返し顔面に○○万円かけた女性登場』
『ブサイクに産んでごめんね』
自分の顔に悩む女性とその母親が涙ながらに半生を語るテレビ番組。
脂肪吸引をして、肩の骨とエラを削って、鼻を高くして…。
整形に依存した彼女の言葉も、失敗のリスクも、聞こえない。
ブスの呪いを解くのはこの魔法しかない。
本気でそう思った。
◎ ◎
「これAちゃん?!」
社会人になり久しぶりに会った友人から知り合いの「今の顔」の写真を見せられる。
細い釣り目で一重、失礼を承知で言うと狐の様だった彼女の眼はパッと大きく華やかになっていた。
「プチ整形したらしいよ。目の周りを切開して開くようにしたんだって。」
ダウンタイムがどうの、金額がどうのと説明してくれる友人の話は私の耳には入らなかった。
まるで別人…。
身近に整形をしている人がいなかったこともあるけど、当時の私にとっては大きな衝撃だった。
貧しく垢抜けないシンデレラが、魔法で美しくなるように。
「切ってるから元の目には戻らないんだって」
それは解けない魔法だった。
◎ ◎
結論から言うと、私は整形はできなかった。
接客業をしていたため、仕事中マスクで傷を隠すことができなかったし、ダウンタイムをカバーするほどのまとまった休みが取れなかった。
それ以上に、たとえ嫌いな自分に対してでも、メスを入れる勇気が出なかった。
幸か不幸か仕事のストレスで痩せた私は目が大きくなり、「可愛い」と言われることが増えた。
化粧を覚えたことでコンプレックスを隠せるようになり、少しだけ前向きになれた。
人の外見をけなし、呪いをかけてくる人が減ったことも大きな要因だ。
褒められることもないけど、傷つけられることもない生活。
学生時代にかけられた「自分はブスでどうしようもない」という呪いは、整形という魔法に頼らなくてもいつの間にか解けていた。
私に本当に必要だったのは、まずは呪いをかけてくる人たちとの距離だったのかもしれない。
今でも自分のすっぴんは嫌いだけど、前ほど嫌いではない。
自分を大切にしてくれる人に囲まれて、自分を認められる状態。
整形ももちろん良いことだけど、多くの人が呪いをかけられない環境にいられることを願っている。