私は、自己肯定感が低い。これは、そんな私が、自分の甘さから引き起こした災難から、勇気を出して逃げた話である。あまり話したくも思い出したくもない、恥ずかしい話だが、だからこそ書き残すべきだと考えた。

◎          ◎

私は、市内でも呑み屋が多い夜の街として有名なエリアで、アルバイトしている。元々は家の近くの居酒屋を希望して入社したのだが、系列店のシフトのほうが多いのが現状だ。
バイト先は地下鉄の駅がすぐそばにあり、最寄り駅には地下街が続いているため、バイト前にショッピングすることもある。自分の買い物はもちろん、イベント毎に友人や実家へのプレゼントを選ぶため、少しばかり早めに家を出て、いくつかのデパートを散策する。

しかしその日、余裕を持って時間を見積もっていたため、予想よりも早く用を済ませてしまった。バイトまでどうやって時間を潰そうかと立ち止まって考える。幸いにも近くにカフェがある。

いや、待て。店選びは慎重にいきたい。
そんな中、視線を感じ、顔を上げると、年配の男性が声をかけてきた。
「お姉さん、可愛いね。お茶しない?」
なんと、人生初めての所謂ナンパである。この手の誘いは、自分の容姿に自信がない私には無縁のものだと思っていた。

◎          ◎

その初めてが、イケメン男性ではなく、おそらく定年退職しているのだろうと思うくらいにはお年を召した男性だったのは残念だが。私なんかに声をかけてくる物好きもいるのだな、と思った次第である。

私は、彼の誘いを断らなかった。理由は、暇つぶしにちょうどよかったからだ。
傍から見れば、おじいちゃんと孫娘に見えるだろう二人は、そのまま喫茶店に入り、クリームぜんざいをご馳走になった。
年齢を考えれば納得なのだが、彼はスマホではなくガラケーを所持しており、番号を交換して別れた。

◎          ◎

それから少し経って、友人が、演奏会のノルマチケットに困っていた。そこで私は、音楽鑑賞が趣味の彼に買ってもらうことを思いついた。
もう会うことはないと考えていたのだが、友人を助けるためだ。私は別の友人と行くが、それでも良ければ買ってくれないか、とメールした。

まず私が立て替えて友人からチケットを買い、それを当日までに渡そうと計画した。ちょうど向こうもごはんを誘ってきたこともあり、再び会うことになった。
私たちは、ランチに釜めしをいただき、代金と交換でチケットとチラシを渡した。これで解散かと思いきや、彼が誘ってきたのはホテル。

これまた人生初めての、所謂ラブホテルだ。
部屋には入ったのだが、結論から言うと、私は何もされなかった。 
彼を年の離れた友人として見ていたのに、急にいやらしい目で見られていたと知り、気持ち悪く感じ、逃げ出してしまった。

◎          ◎

徐々に距離を詰められ、抵抗した。やめてくださいと訴えた。そんな相手に無理やりやるほど酷い相手ではなかったのが救いだ。
正直、致す気など全くないのに、のこのこと部屋についていった私は馬鹿だと思う。
今でも彼と同じような年代の男性の視線が少し怖いとすら感じる。

自分の不注意が祟って軽くトラウマになるほど恐怖体験をした私はその直後、ネットでやりとりしている年上の男友達に連絡し、少し話して気を紛らわせた(誰かに聞いてほしかったけれど、家族や友人に言えるようなことではなかった)。

友人の中でも特に可愛い数人が、ナンパされた話をしていて、当時はそれが信じられず少し羨ましくもあったというのもあり、嬉しさのあまりついていってしまった私の末路である。
それから数ヶ月後、今度は若い男性にバイト終わりに声をかけられ、店で呑むならいいと言っても執拗に部屋に誘ってくるので、お断りしたのはまた別の話だ。