美容院に行きたい。
その瞬間から予約するまで、「髪型を変えたい」で私の脳は支配される。
突発的な衝動に駆られて美容院を予約する心理の根底にあるのは大体同じ。
髪型を変えたい、そう想っている時の私は決まってリセットしたいと強く想っている。

◎          ◎

昔からショートヘアだった私が初めて髪を伸ばしたのは大学生の時。
伸ばしたかったというよりは勝手に伸びた、の方が意味合いとしては近く、新しい自分を見てみてもいいかも、くらいの軽い気持ちだった。
肩に髪がついて跳ねる、髪を伸ばす人が誰でも通る嫌な時期も気にならず、気がついたら鎖骨あたりまで髪は伸びていた。

当時の彼氏はショートヘアが好きだったのだが、色々なものを相手に合わせた中で、髪型だけはなぜか意向を無視して、私は髪を伸ばし続けた。
化粧っ気もない私は自宅でのヘアケアというものにもまるで興味がなかったが、ヘアカラーを全くせず、当然ストレートアイロンやコテを所持すらしていないため、熱ダメージもなく、かつシャンプーだけは少し値の張るものを使用、家でのヘアケアをしない代わりに1ヶ月ごとに美容院でヘアケアをするという、ある意味髪に優しい状況を知らぬ間に作り出し、気づいた時にはダメージ知らずの超美髪が胸下まで伸びていた。

◎          ◎

そんなロングヘアを切りたいと美容室を予約したのは髪を伸ばして4年ほど経った時。

今思うと、当時は人生で1番どん底を味わっていた頃であり、それまでの自分を捨てて人生をリセットしようとしていた。まさに人生における変革の時期だった。

友達関係も彼氏も環境すらも全て清算しようとしていた私の改革の中に、髪をショートヘアに戻すというアクションを含まれていた。逃げられないように美容院を先に予約し、彼氏に別れを告げた次の日、私は40cmほど髪をヘアドネーションした。

「こんなに綺麗な髪、みんな喜びますよ」
4年間髪を手入れしてくださった美容師さんは少し寂しそうに、けれど嬉しそうに私の髪をカットしてくださった。

「ただいま」
40cmの髪束を手前に鏡に映る違和感のない私。
これまで感じていた物理的な重さ以上に心が軽くなったのは言うまでもなかった。

◎          ◎

その時以降、約5年にわたりショートヘアを維持していきた。

髪を切るタイミングは大なり小なり、自分をリセットしたいと思っているときで。
今の自分に満足していない時、私は髪を切りたくなってきた。
そして今、私は5年振りにショートヘアを脱却している。

「髪伸びたね!なんかあったの?」
「う〜ん、特にどうしたいってわけではないんですけど」
久しく会う人ほど今の私に驚き声をかける。

そんな人たちに私は笑顔で、決まって同じ言葉をかける。
「なんか、髪伸ばしたいと思う時ありません?今はそのフェーズにいるみたいです」
顎下をゆうに超えた髪は、他人から見るとボブヘアに分類されるらしい。

◎          ◎

今回も髪を伸ばしたいということに大したきっかけなどなく、単純にショートヘアに飽きたから、そろそろ髪伸びた姿を見たいかも。ただそれだけの理由だと自分自身のことを考察する。

本当は伸ばしたい真の理由などないのかもしれない。
ただ、自分をリセットしたいタイミングがあっても今は髪を切りたいと思わない。
結果として自然と髪が伸びているだけかもしれない。

むしろ髪を伸ばして今までと違う自分を見ることでリセット衝動は解消されている。
方向性は違うにしろ、リセット衝動と髪型が強く紐づいていることは確かのようだ。

髪には人生が刻まれている。
それが負だろうが正だろうが、自分を変えたいと思って髪型を変えた先に待っているのは軽やかに笑える私自身であると信じている。
その時が訪れるまで、私はまた髪を伸ばし続けてみる。