「なんかさ、どこにでもいるギャルって感じだよね」
唐突に放たれたその言葉は、瞬く間に私の心に突き刺さり、止まることを知らずに深い所まで達しようとしていた。夜中のカウンターには私以外誰もおらず、壁に映し出されていた海外アーティストのライブ映像がいつも以上に賑やかに感じた。
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当時22歳。髪を伸ばして4年ほど経ち、ようやく毛先が臍まで伸びた頃のことだった。場所は当時私が働いていたバー。私にその言葉を放った相手はそのバーのオーナーだった。
個性を強く求められる環境のなかで、「どこにでもいそうなギャル」は、店の雰囲気とオーナーが求める人物像に合わなかったらしい。
その頃一緒に働いていた他のスタッフはとても個性的で雰囲気も十分にあり、それに対して私は地味な存在に感じられていたのだろう。世間一般的には普通の見た目でも、その場所では「量産型」という括りになってしまっていたわけだ。
「もっとこうさ、思いっきり自分を出したほうがいいよ。この子みたいなパーマかけたりさ」
そう言ってオーナーは、映し出されていた海外アーティストの映像を指差し、私の視線もその女性DJにうつった。
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ニューヨークでDJとして活躍している彼女は、容姿はもちろん、ファッションやその他のセンスも抜群に素晴らしく、そこに海外のフレンドリーさも相まって、アイコンにぴったりな存在だった。
強めのパーマだろうか。しっかり髪がカールされていて、彼女が動くたびに髪も揺れる。そこに彼女がいることを強く主張しているかのような髪型であり、存在感だった。
私もその魅力の虜になった1人で、いつか彼女のDJを生で見たいと思うほどだった。
話は戻るが、そこまで言われて少しムッとしてしまった私。負けず嫌いと承認欲求の塊のような人間なので、すぐさま携帯を開いて美容室の予約状況を調べた。最短で明日行ける。その瞬間、「勝ったな」と内心ニヤリとしてしまった。
「そこまで言うならわかりました。明日美容室の予約取れたので思いっきりイメチェンしてきますね」
宣戦布告のようなその言い方に、多少のトゲもあっただろうが、「量産型ギャル」のレッテルを貼られたままよりは、イメチェンして驚かせた方が自分にも刺激になると踏んだのだ。ここまで来たからには後には引けない。憧れの女性DJの画像を保存し、イメージを膨らませて、翌日の午後、美容室へと向かった。
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「この髪型にしたいので、ばっさり切って、がっつりパーマをお願いします」
顔馴染みの美容師さんに画像を見せ、イメージを伝えた後、早速イメチェン大作戦がスタートした。髪にハサミが入れられ、数年ぶりに短めの髪へと変わっていく。伸ばす為にとても沢山の時間を要したのに、短くするのは本当に一瞬なのだとしみじみ感じた。私から切り離される髪たちにはなんの未練もなく、床に散らばるそれらを目にし、今までの自分との決別を強く感じさせられているようだった。
髪を切り、パーマをかけ、時間をかけて新しい私が生まれた。くるくるのパーマ。肩より短い髪。なにより存在感。私という名のアイコンが生まれた瞬間である。
時計を見ると、勤務先のバーがオープンする時間になっていた。この髪型になったら1番にオーナーに見せると決めていた。外国人にも負けない度胸と主張。すぐに実行するのが私であり、中身も見た目も決して量産型ではないということを証明したかった。
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バーの扉を開け、オーナーに向かって一言。
「いい感じにしてもらいました」
まさか本当にしてくるとは思っていなかったようで、少しの間をあけてから、
「あぁ、いい感じだね」と、ぶっきらぼうに呟くオーナー。少しは私の存在を認めてもらえたかもしれないが、本番はここから。髪型の主張に負けないくらいの中身を出していかなくてはならない。最初は難しいように思えたが、髪型が勇気をくれたおかげで、その後何事にもアクティブに挑戦できた。
パーマをかけて数ヶ月後にニューヨークへ飛び立った私。目的はもちろん、髪型のモデルになった女性DJのパーティーに行くためだ。憧れの彼女に新しい姿の私で会いに行けたこと、思い出に残る素敵な旅だった。
髪型が全てではないと今でも思っている。でも、変わるきっかけには十分なり得るとも思っている。悔しさがきっかけだったイメチェンは、結局大成功だったのだ。その後また別の髪型にしたのは、とりあえずまた後日ということで。