安易に性別で決めつけることはできないけれど、女子ならクリスマスディズニーへの憧れがインプットされているだろう。
ただ、埋立地にある夢の国は何から何まで高いし混むし結構疲れる。
京葉線で帰路につく頃にはああ大変だった。と毎回思う。
けれど彼氏にクリスマスで行きたいところはと聞かれた時、咄嗟にディズニーとつぶやいてしまった。

スナフキンのあだ名を持つ彼氏は混んでいるところと騒がしいところが嫌いだ。
「クリスマスディズニー」なんてもってのほか……のはずだが二つ返事でチケットを手配したくれた。

◎          ◎

初めての夢の国デートということもあり、かなり意気込んで入念に準備を重ねた。
かわいいペアのコーディネート、回る順番、乗る電車の確認。
まるで遠足に行く小学生みたいにいい大人がはしゃいでいた。

通常午前3時に寝ている夜型の私たちが張り切って21時に布団に入っても寝られないのは明らかで、結局午前4時におしゃべりしながら寝落ちした。

「ビーッ、ビーッ」耳障りなアラームの音。
寝ぼけ眼を擦って布団を引きずりながら這い上がるとズーズー寝ている彼氏を枕で叩き起こす。
すきっ腹に何かを入れる余裕もなく、予定の次の電車にギリギリのところで乗り込んで現地へ向かう。

まるでビーチフラッグの競技みたいだ。寝ているところから起き上がって支度をしながら駅までダッシュする。

急ぐのが嫌いなムーミン村の住人(彼氏)にはこれだけでかなりのダメージだった。

◎          ◎

園内に入るとそこへ雑踏とノイズがたたみかける。

さらに空腹が押し寄せた。とにかく腹を満たす必要があった。あたりを見渡すとアトラクションの長蛇の中にチュロス屋が見える。
「これじゃアトラクションにも乗れないね。」そう言いながら近づく。
ん?列がチュロスに向かって伸びている。「え、まさかこれチュロスの列なの?」
聞くと待ち時間は30分だという。しかも1本600円!?油で揚げた小麦粉と砂糖の塊が?
現実的な私のお財布は口を噤む。だめだ、夢の国基準で考えなければ……。
しかし「大人」になれない私は30分並んで600円払ってありがたくチュロスを食べる異常性に妥協するなんて負けな気がして結局何も食べられなかった。
二重苦三重苦で限界になった私たちは午後3時思い出せないくらいしょうもないことで喧嘩をした。

お互い語気を荒げ言い争う。まるで夢の国にそぐわない風景。
「もういいよ。」そう言い残してぷんぷん、気が済むまで歩き回った。しばらくすると、ウエスタンリバー鉄道が視界に入った。そういえば彼氏が乗りたがっていたやつだっけ。
まあいいか、1人でのっちゃおう。ちょっとした腹いせを込めて乗る。

「シューーー、ポーーー!!」汽笛はまるでキレる私の鼻息のようだ。煙をあげ列車がガタンと動く。 
だんだん正気に戻ってきたのは列車が白亜紀を通りすぎた頃だった。
ああ、申し訳なかった。無理してきてもらったのに。
喧嘩のきっかけなんて忘れたけれどなんとなく気が咎めた。

◎          ◎

謝ろうと思って園内をぐるりと探す。
180cm近い体格のいいスナフキンが小さくなって白雪姫のトロッコに揺られているのが見えた。ますますかわいそうだ。
近づいて手を振る。
カップルと親子に挟まれ萎縮した彼がこちらに気がつく。
安心したのか子どもみたいに無邪気な顔をむけて手を振りかえしてくれる。
強がらなければ、こんなに早く解決するのだ。

「お互いヘトヘトだね。」仲直りをした彼の口調は軽かった。
「いろんな意味でね。」
私たちは少し早めに舞浜駅へ向かって歩き始めた。

「2番線、ドアが閉まります。ご注意ください。」
It’s a small worldの発車メロディに合わせ京葉線に乗り込む。
「ふぅ〜。もうしばらくはいいかな。」彼氏はだいぶ懲りてしまったようだ。
車窓からすっかり日が落ちた外の景色を眺める。
金色の光の群れがだんだん遠ざかっていくのが見えた。