小さい時、テレビで芸能人の誰かが結婚したというニュースをみたり、家族から親戚の誰々ちゃんが結婚したなどの話を聞くと、私も大人になったらいつか結婚するのだろうな、とぼんやり思っていた。私は絵を描くことが大好きだったので、自分が思い描くウェディングドレスを画用紙に描いて楽しんでいた。

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28歳の今、私は結婚している。4年前に、6年付き合っていた彼からプロポーズしてもらい、一緒に結婚指輪を選んで、2年前から一緒に住んで、昨年結婚式を挙げた。

でも、私たちは“法律的には”夫婦ではない。入籍をしていないからだ。私たちはどちらか片方が姓を変えて入籍はしたくないから、日本で選択的夫婦別姓が法律的に認められるまで待とう、という事に決めたから。私たちの住民票の私の氏名の隣には「妻(未届)」と記載されており、いわゆる内縁の妻、事実婚状態となっている。

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結婚は何か、聞かれたら、多くの人は何というのだろうか?一緒に住むこと?入籍?財布を一緒にすること?結婚式を挙げること?子供を産み育てること?同じ墓に入ること?配偶者控除など税制面での負担軽減?
私たち二人にとっては、それまでの生き方やキャリアも大切にしながら、お互いに尊重し、支え合い、話し合いながら、一つ一つ共に選択し、夫婦・家族になっていくことだと感じている。

でも、この”入籍していない”状態はどこに行っても説明が必要だ。会社での年末調整では税理士の方から、配偶者ありなのに入籍をしていないので、税制上の手続きの確認に時間がかかります、と言われた。どちらかが入院した時に、事実婚だと家族と認めてもらえないので、私が緊急受診した時付き添いの夫は「彼氏」と記載するしかなかった。旅行をしても食事を予約しても、結婚指輪はしているが苗字が違うので、「ご夫婦」と呼んで良いのか戸惑われる時もあった。

つまり一般的に世の中で言われる結婚とは“入籍”だったのだ。
この国で、私と彼は“結婚”していないのだ、と何度突きつけられただろうか。だって入籍届けを出していないから。夫婦同姓しか選べない日本の法律が、私たちを「法律上の正式な夫婦ではない」とする。

結婚ってなんだろうか、と改めて思う。結婚は、一生この人といたい、と思える運命の人に出会って、将来を誓う人生の一大イベントだと思っていた。でも、違う。この国での結婚は、入籍届けを出す、という書類上の契約のことだ。書類上の契約に過ぎないくせに、それを結婚というキラキラとしたコーティングを纏わせて、どちらかが苗字を変えなくては入籍できない、というルールを覆い隠していると感じる。

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事実婚状態になってみて、法律婚していないとできないことと、法律婚でも事実婚状態でもできること、そもそも婚姻状態の有無は関係ない事柄が、世の中には入り乱れていることに気づいた。

事実婚状態の私たちは、配偶者控除、子どもが生まれた時に両親に発生する親権、相続税の軽減、生命保険の契約、医療費控除など、税制上の控除を受けられない。これらは、入籍をしていれば“自動的”に得られたものである。

でも、事実婚状態でも、年金や健康保険などの社会保険の扶養者にはなれる。でも、条件は法律婚もそれ以外でも同じ、年間収入が130万円未満であること。

また、婚姻状態がどうかなど関係なく、世の中の仕組みは問題なく回っていることもある。世帯が一緒であれば選挙権は送られてくるし、コロナワクチン接種券も問題なく届いた。どこで情報を得たのか知らないが、夫の苗字+私の名前(つまり存在しない人の名前)の記載で送ってきた宅配だって届く。

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正直な思いを言う。「彼の名前になりた〜い」って言って、「婚姻届出しました♡」とSNSに投稿できる“かわいい”女の子になりたかった。「彼の名前を貰えて嬉しい、会社に報告しよ」って思える“普通の”女の子になりたかった。

でも、なれなかった。だって、自分が今まで一緒に歩んできた氏名と、その氏名で築いてきた経歴や人との繋がりが、途切れてしまう喪失感に耐えられなかったから。自分が嫌なことを相手にさせたくなかったから。そして、その気持ちを相手にぶつけた時、最初は「結婚したくないってこと?」と戸惑った彼も一生懸命私の気持ちを受け止めようとしてくれて、僕も相手が嫌がっていることをさせたくない、と言ってくれたから。二人で話をして、選択的夫婦別姓を待とうって決めたから。

「一般的には入籍する人が多いし、女性の私が名前を変えれば、とりあえず丸くおさまる話だしな、まあ仕方ない」と諦めることなんてできない。それは、お互い相手を傷つけないか不安を感じながらも自分の気持ちをぶつけて、相手も思いを伝えてくれて、夫婦二人で話し合って出した結論を、ないがしろにしてしまうことだ。そんなこと、耐えられない。

何と戦っているのだろう、と虚しくなる時もある。社会からの「女性が変えるものでしょ」と言う同調圧力に対して?自分が折れればいいのに意地を張っている自分に対して?事実婚状態を(社会的にマイナーな選択を、”自分たちの都合で”)選んだなら法律婚と同じ条件を求めるべきではない、と感じてしまうことに対して?

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私たち二人はよくお互いに「きっと世界で一番仲が良い夫婦だよね」と話をする。10年一緒にいても全然飽きないし、今まで色んな悩みや葛藤を伝え合ってきたし、一緒に住んでからは特にいろんなことを二人で一緒に考えて決めてきた。二人のうちどちらかが上に立つことなく決定を押し付けないこと、決定を押し付けないように努力してきたこと、お互いを尊重してきたこと全ての過程が私たちにとっては結婚だと思う。

こんな結婚の形、法律婚つまり国が認める夫婦にしていただけませんか、政府のみなさん?