学校を卒業して舞台俳優を志すも、バイト生活で何となくつまらない日々……。
バイト中髪はお団子にまとめなきゃいけなくて、毎日毎日長い髪を支える私の頭皮は悲鳴をあげていた。
ある日思い立って美容院に行った。
2月14日。
バレンタインに、「バッサリ切ってください!」っていうオーダーをしたので、絶対なんかあっただろ、と思われたに違いないけど本当に何もなかったのにバッサリいった。
これまで20年間付き合ってきたロングの髪型。
切ってしまったらもう後戻りはできない。
でもなんかもう、どうにでもなれ!という気持ちだった。
ゲームみたいに、空の上から自分を操作しているような、他人事みたいな気持ちで、鏡の前に座っていた。
◎ ◎
人生ではじめてのショート!軽い!!!
似合わないと思っていたけど、意外と似合っている気がする…元々小さい頭の形が綺麗に引き立ってる。今まで気づかなかった自分の一面!
別人みたい!
少しおねえさんになった気分だった。
次の日は東京駅に散歩に行って丸の内OL気分に浸ってみたりした。
ここから私は、少し大胆な行動も取れるようになっていった。
あの日、ゲームを操作するみたいな気分で美容室に向かったみたいに、色々なことに何も考えず突っ込んでいくようになった。
髪の毛に宿っていた怨念とか執念とかが落ちていって、軽い状態になったんだと思う。
それから私は、何か新しいことを始める時とか、ちょっと勇気を出したい時など、ことあるごとに美容室に行くようになった。
◎ ◎
色々燻ったのちに、約2年ぶりに舞台に出ることができた。
それも、少し大胆な行動をとれるようになってから掴んだご縁だった。
大先輩の、凄い俳優さんたちに囲まれて、私がいただいたのは少年役だった。
作品の転換役になるような、象徴的な役だった。
私はこれをキッカケに、ずっとやってみたかった髪型に挑戦することにした。
外国の少年みたいなパーマ!!
美容師さんも、「すごいクルックルですね笑」って楽しみながらやってくれた
襟足までカンペキにクルクルにしてもらった
やってみたかった髪型をできて満足…!
と思いきや、私は少し落ち込んでいた。
なんだか初めて、「女性性」を失くしたような気持ちになったのだ。
ロングからショートにしたときは、可愛らしい「女性っぽさ」は残ったままだった。
だけど今回は、「少年っぽさ」がとても強く、まるで自分がいきなり男になってしまったみたいで寂しさを感じた。
私は、自分の性別にこだわっているつもりなど全然なかったし、なるべく隔たりのない考え方をしたいと思っていたのだけど、
その時初めて「女性らしくいたい」という気持ちが自分の中に存在していたことを知った。
そして、外見と中身が不一致している感覚というのはこんなにもつらいのか、と感じた。
◎ ◎
落ち込んでる暇もそんなになく、無事稽古や本番を迎えることができ、
いつのまにか、「少年」という役に馴染んでいくように、自分の髪型にも馴染んでいった気がする。
一度そういう「女性らしさ」という概念からお別れすることができて、一段と自分の表現の幅が広がったように思う。
今まで試着しようとも思わなかったシャツとか帽子とか、メガネとかにも挑戦してみたり、髪型に合うようなファッションを考えたり勉強するのがとても楽しい。
「女性らしく」も「少年らしく」も、どちらにも見えるような、自分にしかない雰囲気を好きになることができつつある。
人が変わるキッカケって色々あると思うけど、私はいままで割と「髪型」が与える影響って大きかったなっていう印象。
見た目を大胆に変えることで、中身もそれに合わせて変えようとする力が働くのかも。
最初は強引な感じがしたけど、何かを変えるってそれくらいエネルギーが必要なこと。
より自分らしくいるために、”しっくりくる”生き方を探して常に変化を求めていきたい。