無給のサービス前残業20分、終業時間後のサービス残業20分、休憩時間はすべて書類作成の時間でなくなった。そんな私の勤めていたブラックなアルバイト先は個別指導塾だった。多くの人が名前もCMも知っているであろう、全国展開されているチェーン塾。私は1年間でこの職場から逃げた。後悔はしてない。でも、反省はしている。

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時給が高いと言われる塾講師。だが、実際私が受け取った給料を、業務時間で割ると最低賃金を下回っていた。なぜそんな現象が起きるかというと、高い時給が発生するのは授業している時間のみだったからだ。1コマ事務の仕事を割り振られているときは最低賃金の時給が支払われる。だが、授業準備時間や書類作成時間は給料が発生しない。

この授業準備と書類作成で授業開始20分前から事務作業をしていたし、授業終了後20分かけて事務作業をしていた。すると不思議なことに、働いていると思っている時間で給料を割ると最低賃金を下回るのだ。

私が勤めていた塾は講師1人に対し3人の生徒を持つ。当日まで、どの学年のどの科目を担当するかはわからない仕組みだった。3人とも同じ学年、同じ科目、同じ進行度なら授業準備は簡単なのだが、私は1度もそんなケースに出会っていない。そのため、3人分の科目と進捗を確認し、生徒によっては進捗に合わせて難易度の高いワークをコピー対応したり、英単語のテストを作成したりすることが必要だった。契約時には聞かされていない内容だった。「授業開始時間までに自分のブースにいればOKなんで!」としか言われていなかったため、働き始めて驚いた。

そして授業をした3人に対して、日報、学校の進捗表、テスト期間は学校の課題の進捗表などを作成する必要があった。「授業時間に書いてもらうことを想定しているから、書けてなくて残った場合でも給料は出ないよ」と言われた。生徒に寄り添って、解き方の解説をしたり、学校の課題の質問に答えたり、そういったことをすればするほど、授業時間に書類を作る時間はくなった。結果として、授業後に残って書類を作っていた。

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ほかにもサービスで残業させられる裏技がこの塾にはあった。残って作業が必要な時に「お願い」というと命令したことになり給料が発生する。それを避けるために、「ご協力」という言葉をよく利用していた。あくまでも、任意なのでという体で労働させられていた。

塾長は、サービス残業をする新人の私たちに「新人はみんなそんなもんだから」、「れたら残業しなくて済むよ」と言っていた。当時の私は、慣れてきたら手際も良くなってサビ残しなくても済みそうと思っていたが、現実はそう甘くなかった。なぜなら、ベテランの講師の人たちが残業しないのにはあるカラクリがあったからだ。

ベテラン講師は授業が始まってから授業準備をして、待たせる生徒が出ても割り切っていた。書類は授業中に生徒を放置して書いているところもよく目にした。そして、時間内に書ききれない場合は次のコマに、その生徒を担当するのが私たちのような新人だった場合、「ごめん、前のコマの分もついでに書いといて~」と渡すのだ。こうしてベテラン講師は残業することなく、給料を得ていた。

私は、もともと家庭教師のバイトをしていたこともあり、生徒第一で授業時間は使いたいと強く思っていた。だから、個別指導の塾を選んだ。でも、いまの雇用契約のまま生徒第一にしてしまうとサービス残業が発生してしまう。私は割り切れないままサビ残を受け入れて1年間やりがいを搾取された。働き始めて7か月目には、脱毛症になっていた。体が限界だと気づき「来期から大学の予定的にシフト入れそうにないので辞めます」と告げて塾を去ることにした。

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塾講師の仕事から逃げたことは1度も後悔していない。辞めてよかったと今でも思う。でも、反省はしている。私は本当の理由を告げずに逃げた。あの時、声を上げて辞めていたらと思う。そうすれば、私のようにやりがいを搾取される犠牲者が1人でも減ったんじゃないかと反省している。逃げたことは後悔していない。でも、もっと上手に逃げればよかったなと反省している。