我が家の電球は少し特殊で、どれだけ必死に探し回っても、その辺の家電量販店では取り扱っていなかった。電球が切れそうなことに気がついたのは、大嫌いな梅雨に入ってすぐのことである。やさしく温かい光が部屋を包む中、時折チカチカと電球が点滅し、安らぎの空間から一変、落ち着きがなく居心地が悪い部屋へと変貌してしまった。切れそうな電球をぼんやりと眺める。今まで意識したことがなかったが、だいぶホコリも溜まっているようだ。手を伸ばしてもなかなか手が届かない電球の存在に、どこからか溢れ出た虚しさと切なさを感じていた。
「こんなとき、一緒に暮らしている男の人がいれば、すぐに電球を替えてもらえたのだろうか」。

◎          ◎

そんな考えが私の頭をよぎる。27歳独身。一人暮らし歴が人生の三分の一を占めるようになってしまった。小さい頃の夢といえばケーキ屋さんだったが、今は専ら「幸せなお嫁さんになること」である。まずその前に彼氏を作らなければいけないのだが、私は今住むこの土地で彼氏を作る気はさらさら無い。良くも悪くも小さな街だ。道を歩けば知り合いばかり。みんなどこかしらで繋がっており、新鮮味が感じられないのだ。もちろんみんな良い人だ。しかし好奇心旺盛な私には、「安心」「安定」という言葉が引っかかってしまう。まだ見ぬ世界に飛び込んしまいたい。そんなやんちゃな私を、27歳になった今でも止められずにいるのだ。

なかなか見つからない電球を探しているうちに、もういっそのこと替えなくてもいいのではないかという考えに至った。必死に探して見つかったとしても、結局自分では替えられない。それなら最初から探す必要もないし、なんならこの部屋を出て行ってしまおうか、なんて思い始めた。

◎          ◎

この街で人生のパートナーを見つけて結婚する気はない。それなら他の土地へ行くしかない。私の夢は幸せなお嫁さん。シンプルにそれだけ。誰に文句を言われようが後ろ指さされようが、私が幸せになれるかどうかは、私の選択次第。元から一つの場所にとどまれないタイプなのだから、平々凡々な毎日に飽き飽きしている自分にもとっくに気がついていた。切れそうな電球はまるで私の心のようだ。明るくいることにほんの少しだけ限界を感じてしまったようだ。「本当の自分らしくいること」。それを理解してくれる人と、私はこれからの人生を共にしたい。ずっと一緒にいて喧嘩もして、それ以上にたくさん笑って、美味しいものを美味しいと言い合いながら食べたい。そんな幸せを夢見る今日この頃だ。

目的地不明、やりたいこと未定、未来への好奇心は無限大。それだけで「生きてる」という感じがゾクゾクするほどに湧き上がってくる。今は恋してる?最近調子どう?そんな決まりきった会話とももうおさらばだ。そう遠くない未来、私はこの部屋を出ることだろう。私が飛び出すのが先か、電球が切れるのが先か、どうなるのかはまだ誰にもわからない。