ちょっと奇抜な髪型が好きだった。中学生の頃から、ツーブロックとか、刈り上げとか、アシンメトリーとか、様々な髪型に挑戦していた。

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しかし、高校に入ってからの私の髪型はボブになっていた。サラサラなボブ。なんでかというと、柄にもなく片思いをしていたからだ。意中の相手から可愛いと思われたくて、自分のしたい髪型を諦め、したくもない髪型をして笑っていた。

そんなとき、女性だけれど坊主頭をしている先輩に出会った。私も今までさまざまな髪型をしてきたが、坊主にする勇気はさすがになかった。尊敬の意をこめて坊主に秘めたる理由を聞いたところ、

「私はブレイクダンスをやっているんだけど、男のダンサーに『女のダンスなんかダメダメだよ』ってバカにされたの。すっごく悔しくて、女でもできるんだぞ!ってところを見せるために、坊主にしたの」と教えてくれた。

頑張って練習してダンスで見返すという発想はなかったらしい。ロックだ。その坊主は、先輩の強さの形だと思った。だとしたら、私のボブは女の形だ。私の色気の象徴だった。

その後しばらくしてから私は失恋をして、早々に頭を金髪にして襟足を刈り上げた。美容師さんには「ひよこがたまごの殻を頭にかぶっているイメージで」と注文した。久々にすっきりした後頭部を撫でると、ジョリジョリと懐かしい触感がする。この刈り上げは、私の形だ。

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次の日学校へ行くと「あ、刈り上げたんだ。気持ちよさそう。」と、友達や先生が後ろから勝手に私の刈り上げを撫でる。そこは「私の刈り上げ」だ。ボブだった頃は触られることがなかった部分を、無断で他人に触られる。なんと失礼なことか。女性のお腹を触ったらセクハラになるということは誰にだってわかることなのに、妊婦さんのお腹は勝手に触ってもよいと勘違いしている人がいる、という話に通ずるものを感じる。

また、マッチョの筋肉やぽっちゃりさんのお腹もそうだ。勝手に触られてしまいがちだが、そこは「他人の体」だ。他人が勝手に触るべきではない。刈り上げをジョリジョリと触られながら、そんなことを考えていた。

襟足の刈り上げですらこんなにも無断で触られるのだから、先輩の坊主もさぞ触られたろう。私の刈り上げは私のもので、先輩の坊主は先輩のものだ。それぞれの、「体」だ。そして、「体」であり、「形」なのだ。それぞれの想いが込められた、大切な形。他人に容易に触らせるものではない。

だけれどほんのちょっとだけ思ったことは、もしも私の恋が実って、意中の人が私の頭を撫でてくれることがあったとしても、その時の私の髪型はボブがいい。もしくはロング。コテなんかで巻いちゃってもいいかも。なんて、特に意味はないのだけれど、なんだか刈り上げには触って欲しくないと思った。私自身は、私だけのものだ。次に恋をするときは、変な頭の私を見つけてくれる人にしよう。変な頭で笑える相手を好きになろう。そのときは、触らせてあげてもいいかもしれない。