女が髪型を変えるとき、とりわけ一気にイメージを変えるとき、そこには何かしらの心の動きや決意がある。髪を染める、パーマをかける、色々あるが、やはり1番強いインパクトを与えるのは「ロングヘアからショートヘアにする」ことではないだろうか。そしてこれは世の男性諸君に覚えていてもらいたい。女性がかなり髪の毛を切ってイメージが変わったとき、そこには強い想いが込められていることを察した上で、そう思わなかったとしても必ず「かわいくなった」「似合ってる」「前のも良かったけど今の方が良い」などの声掛けをしてほしい。その一言が“異性から”あることが、髪を切った自分を肯定し、先に進む原動力になるのだ。

私の癖の1つに「かなり長いロングヘアまで伸ばしてから一気にショートヘアにする」ことがある。あのときの爽快感というか、生まれ変わる感じというか、何ともいえない心地よさがあるので、数年に一度これをする。そしてショートにするたびに「やっぱり短い方が似合うね」と言われニマニマするのだ。ただ、髪はそうそう伸びてはくれないので、切るタイミングは非常に重要で、安易に切ることはない。それこそ、一大決心なのだ。

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大学3年の冬、その時が来た。1年以上付き合っていた恋人との関係にモヤモヤする日々。もうすぐクリスマスという、なぜか恋人と過ごすことが課せられている日が来るというのに、全く心がときめかない。別れる理由は特にないけど付き合っている理由も特にない、そんな頃合い。

ここはひとつ刺激を入れようと、胸より下まで伸びた髪を耳の横くらいまで切った。わかりやすい表現で言うと、「量産型ガール」から「個性的ちゃん」への変貌を遂げた。ちなみに私の平常運転は「個性的ちゃん」の方。さぁこの変貌ぶりにどんなリアクションをとるか!少しわくわくしながら、久しぶりのデート。これは誰よりも先に恋人に見せねばならぬ。

待ち合わせ場所で明らかに印象が変わった私を見て開口一番、「何か食べたいもんある?」。

ん?他に言うことは?まぁまぁこの人はかなりのシャイボーイなので、もしかしたらいきなりコメントをするのは難しかったのかもしれない。しばらく待ってみるが、一向に髪の毛の話題が出ることはない。「この人、私の髪の毛見えてないんか?」と疑ってしまうほど何もない。ノーコメント。そのままこの日のデートが終わろうとし、耐えきれなかった私は「で、この髪型はどうですか?」と聞くと「うん、自然な感じ。馴染んでる。」自然…似合っていると受け取れなくもないが…全然嬉しくなかった。スンっと心が冷たくなる感覚があった。今だったらこれを「蛙化」と呼びますか?

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後日大学へ行くと、みなさん本当に、こちらが恥ずかしくなるほどには褒めてくださった。ショートは女子からの称賛がすごいんですよ。これはまた別の話題になるんですけど。恋人以外の男性からも「めっちゃ似合ってる」「印象かわった」「かわいい」等々いただきまして。プラス方向への刺激のつもりが、マイナスを加速させることになるとは、ということです。
この出来事が引き金で、という訳ではないが、大学卒業を待たずして恋人とは別れた。この出来事からもう10年弱経った今でも根に持っているので、当時かなりショックだったのだろう。大人になった今だったらそんな不器用さも愛せたかもしれない。「こういうときは嘘でもかわいいと言え!」と冗談で言えたかもしれない。「はぁ~あ。」というがっかりしか浮かんでこなかった若い自分もまた、かわいい恋愛初心者だったのだろう。
追記。今の恋人は「今日マスカラの色が違う!かわいいね!」まで言ってくれます。