これは高校一年生の時の話。
私を振った夜、彼のSNSのステータスメッセージは「独占欲が強い」に変わっていた。

私達の交際を唯一知る友達はそれを見て、翌日、ニヤニヤしながら私のところに駆け寄ってきた。
私は「別れたよ」と何でもないように笑顔で答えるので精一杯だった。

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平気なわけない。彼が何を考えているのか分からなかった。私を嫌いになったわけではないと言った。ただ、彼女がいるということが性格的に合わなかったと。確かに彼は、犬よりは気まぐれで自由な猫というタイプだ。でも私は束縛なんて一切していない。むしろ、お互いになんて声をかければいいか分からず、一緒に過ごす時間が少なすぎたくらいだ。一人でいる間に他の男子とばかり話していたというわけでもない。「独占欲が強い」の意味がまるで分からなかった。対象が私以外の誰かなのかという、考えるだけでもやもやすることまで頭の中をぐるぐる回り始めた。

数日してもう一度彼のステータスメッセージが変わった。
「両想いだったのに、気がついたら片想い。ずるいよな」
誰と誰の両想いで、どちらの誰に対する片想いなのか。考えられるパターンはたくさんあって、そのどれもが胸を締めつける辛いものだった。

何で今更と思った。付き合っていた時は全く恋愛の香りがするメッセージなんて登録していなかった。

独占欲が強いなら私の肩に手を回すくらいしてくれてもよかったのに。もし、彼の、私に対する片想いなのであれば、付き合っていた時、「好き」だと一言言ってくれたらよかったのに。

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ああ、私は結局、一度も彼に「好き」だと言ってもらってない。

告白したのは私だ。私ばっかりずっと苦しい。あれ、でも。夜道の運転中、唐突に目の前に生き物のシルエットが見えた時のような、胸が一気に詰まって冷や汗が出るような感覚を覚えた。

私だって、彼に好きだと言葉で伝えたことはない。

お互いの好きな人を探り合っていた時、ヒントを言った。
「数学の授業の時、私の前の席で居眠りして先生に怒られていた人」
そんなのたった一人しかいない。回りくどい言い方なんかしないで真っ直ぐに言っていたら。何か違ったのかな。
告白なんてしないで、この関係に名前なんてつけなかったら、私達はお互いの気持ちにたくさん気づいて、自分の臆病さでその期待を握りつぶして、程よく淡くなった想いに振り回されながら、一緒にいられたんだろうか。

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でも、これしかなかった。少なくとも私は彼が好きだった。名前をつけたいと思うほどに好きだった。好きだから嫌われたくなくて話せなくなった。
お互いがしたことよりも、できなかったとこのせいで私達は傷ついたし、その分傷つけた。
ああ、私だけじゃなかった。私達は似たもの同士なのかな。彼も私がそうだったようにちゃんと私が好きだったのかな。今ではもう分からない。でも、きっとそうだという自信がなぜか少しずつ湧き上がってくる。
だって、SNSの、「不特定多数」という建前の下で個人に向けたメッセージで、こんなにも何かを伝えようとしている。分かってる。初めからこれは、私と彼の話だったんだって。これが私達らしさなんだって。

自分のプロフィール画面を開く。
ステータスメッセージの欄にゆっくりとタイピングする。ただ一言。私が今願うのはただこれだけ。
「虹が綺麗」