私は幼いころからずっとショートヘアだ。今は月に1度のペースで髪を切るので、首が髪に隠れることはほとんど無い。少しでも髪が首にかかるものなら、あまりの邪魔さ、鬱陶しさでイライラが止まらなくなり、人生の全てが上手くいかない気がする。楽であることに、慣れ過ぎてしまった。子供を4人自立させ、子育てを終えたおば様のように、「もう私はお洒落より、利便性を取るわ」と、ずっとショートヘアを貫いている。

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髪型は、多かれ少なかれ、その人のイメージを作るものだ。ずっとショートヘアで生きているから、ショートヘアの女性が一度は言われるであろう言葉、ショートヘアに対する偏見の全てを受けてきた。身長が比較的高いこともあって、「スポーツ得意そう」「バスケかバレーやってた?」「サバサバしてそう」「カッコいい」などなど…何回も言われた、本当に。実際の私は、スポーツは全く出来ないし、卓球部の補欠だったし、職場のちょっと注意されただけで泣いちゃうし、どちらかというと可愛い人間だ。最近は「ショートヘア好きな男性多いよ」「ショートヘアってモテるよね」と言う人がいる。そんな説は、残念ながら私の嘘みたいにモテない人生で、覆してしまう事となる。

ショートヘアにも色々な形がある。よく友達から「さとみはずっと髪型変わらないよね」と言われるが、実はショートヘアという枠の中で、色々な挑戦をしている。ショートボブ、きりっぱなしボブ、ひし形ボブ、段を入れたり入れなかったり、丸みがあったり無かったり…。大学生の頃は、サブカルへの強い憧れから、ビートルズの写真を美容師に見せ、重ためのマッシュヘアにしたこともあった。壊滅的に似合わなかったが。

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ショートヘアは、盆栽に似ている。とにかく、フォルムが命だ。そして、切り立てのかっこいいフォルムから、形が崩れるのが早く、伸びかけの状態が一番カッコ悪い。だから私は月に一度のペースで美容院に行く。髪を伸ばしてみようかと思っても、伸びかけの状態のカッコ悪さ、どんなアレンジを施しても上手くまとまらない感じに耐えられず、結局またショートヘアに戻る。ショートヘアから脱出出来ない。蟻地獄とはこのことだ。

けれど、やはり人生で一度は、ロングヘアにしてみたい。ロングヘアで、さらっさらのストレートヘアも、女の子全開のポニーテールも、ツヤツヤできゅるきゅるな巻き髪も、やってみたい。ショートヘアの今の私には似合わない、ガーリーなお洋服も着て。

この夢をちょっとでも叶えるべく、最近流行りの画像生成AIを使って、自分をロングヘアにしてみた。最近のAIは優秀で、本当に私がロングヘアかのような画像を生成してくれた。

しかし、あまりにも似合ってなさ過ぎて、ケラケラ笑ってしまった。ロングヘアの私は、コンプレックスの面長がより強調され、顔にメリハリが全く無い。綺麗なお姉さんとは程遠い、のっぺりとした印象の私が、そこにいた。ストレートヘア、ポニーテール、巻き髪、どれを施しても似合わない。

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ずっとショートヘアにしておくという今までの選択は、間違っていなかったんだと思えた。これは誇らしいことだ。私の人生において、「正しい選択をした」と自負出来る事なんて、なかなか無い。

これからも、私はずっとショートヘアだろうなと思う。月に1度美容室に行き、髪を綺麗に整えてもらうルーティーンも、ショートヘアに合うカジュアルなお洋服も、ショートヘアに対して向けられる偏見も、実はそれほど嫌いじゃないのだ。ロングヘアへの憧れは抱きつつも、ショートヘアに縛られる人生を、割と楽しんでいる。