私が一番好きな季節、秋。
秋が好きな理由はたくさんある。過ごしやすい季節だから、食べ物が美味しいから、誕生日までのカウントダウンが始まるから…。でも一番の理由は、ノスタルジックな気持ちにしてくれるからだと思う。

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私は秋休みを一度も経験したことがない。正直、同じ日本で秋休みがある学校が存在すると知ったときはかなり驚いた。それでもやはり他の季節と比べると、長期休暇とよべる程の休みではないらしい。そのくらい私が大好きな秋は瞬く間に過ぎ去ってしまう。でもその儚さも、好き理由の一つなのかもしれない。

秋休みがない代わりに、私の学生時代は運動会や体育祭などのイベントが必ず秋に行われていた。地元の地域で行われる運動会やお祭りも、秋の恒例行事である。そしてこれらの記憶を思い出す際に必ず結びついてくるのが、金木犀の香りだ。…いや、金木犀の香りをかいだ時にこの記憶が呼び起こされるといった方がいいのか…。どちらにしても好きな香りの一つ、金木犀の香りを楽しめるのも秋の醍醐味である。

金木犀の独特な香りが鼻を掠めたその瞬間、全力で何かに夢中になっていた当時の思い出が一瞬で蘇り、なんとも言えない懐かしい気持ちになってしまう。この現象はプルースト効果というらしい。特定の匂いを嗅いで過去の記憶や感情が蘇えるこの現象のように、嗅覚は五感の中でも感情や本能、記憶に働きかける力が強いと以前学んだことがある。

土の匂いが立ち込めるグラウンドで鳴り響くピストルの音、いつもとは違う母特製の大きなお弁当、小さな田舎に響き渡る祭囃子の太鼓や笛の音…。全て、もう二度と戻ってこない大切なキラキラした思い出だ。香り一つでここまで感傷に浸れるとは、そりゃ金木犀を好きになるのも、ひいては秋を好きになるのも当然である。

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だが、こんなにもノスタルジックな気持ちにさせてくれる秋に、ロマンス思い出は一つもない。(運動会で好きな人をちらちら意識するのは別だ) なぜなら私は、秋に彼氏がいたことが一度もないのだから。

今まで三人の男性とお付き合いをしてきたが、どれも一年と続かなかった。大学生の時初めてできた彼氏は冬の3ヶ月だけ、アプリで出会った次の彼は夏の2ヵ月でお別れした。その後付き合った年下の彼とは初めて半年続いたが、つい先日破局を迎えた。

どの恋もすべて私からピリオドを打ってきた。プルースト効果のせいだろうか。香りからその時の思い出が呼び起こされるのなら、「記憶する程この人のこと愛せているだろうか」あるいは「この先記憶するのに値しない・したくない」と、本能的に判断して今までお別れを告げてきたのではないだろうか(と、言い訳しておく)。

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自分の輪郭が保たれているか不安になるほど、溶けるような暑さが続くこの頃。秋がやってくるのを今か今かと待っている私は、相も変わらずアプリを再インストールし右へ左へと指を動かしている。冷たい空気に覆われ、吐く息が白くなる前のその束の間に、大好きな香りに包まれながら「大切だ」と思える人に今年こそそばにいてほしい。