15年以上前。小学6年生の私は、インターネットにハマっていた。家にはパソコンがなかったので、土曜日になると近所の祖父母の家に行き、新しいもの好きの祖母のパソコンを使わせてもらった。毎週見ていたのは、とある交流サイトで、画面上の自分の部屋に掲示板や日記があり、匿名の誰かと自由に交流できた。今のSNSの前身ようなものである。全国に住む同年代から高校生くらいの人たちとたくさん話をした。その人数は優に100人を超えると思う。リアルな世界では知り合えない人たちの話を聞くことが何より新鮮だった。「事故に遭ってしばらく動けないからネットをしている」「ドラムを習っていて、バンドを始める!」「不登校でパソコンやってる〜(笑)」どの話にも興味がわいた。
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一方で、リアルな世界、つまり学校は楽しくなかった。ほぼ毎日行ってはいたが、日に日に疲れが溜まり、限界がくると休んだ。苦痛だった。クラスメイトは仲良しグループがきっちりと分かれていた。みんな、グループやスクールカーストに従って接し方や態度を変えた。そういうクラスという狭い世界に辟易とした。毎日クラスメイトの様子を見ていたら、次第におしゃべりすることが苦手になってしまった。授業で発表するときはいいのに、友だちとワイワイ喋れないのだ。自分を表現できなくなり、我慢することが増えて疲れた。そうしていくうちに、悪循環に陥った。
私にとって交流サイトは救世主だった。誰も私のことを知らないし、私も相手のことを知らないから何の先入観もない。グループやカーストもないし、苦手な相手とはいつでも距離を置けたからだ。
ある日、一つ年上の女の子と近所で会うことになった。サイトでやりとりするうちに、隣の市に住んでいることを知り、会いに来てくれるというのだ。当時はネットで知り合った人と実際に会うことは、最もやってはいけないことのうちの一つだった。教科書には、可愛い女の子の仮面をかぶったおじさんの絵が描いてあった気がする。こういうおじさんがいるから、実際に会ってはいけないのだと言う。比較的優等生な私だったが、この時ばかりはルールを破り、こっそり中学1年生の「マイちゃん」と会うことにした。
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当日現れたのは、ショートカットでデニムを履いたスタイルのいい女の子だった。教科書は嘘だと思った。プリクラを撮り行こうと商店街を歩いていたら、「小6だよね?小学校楽しい?」と聞かれた。本音では、「学校は、つまらないうえに苦痛」と思っていた。でも、心のどこかで、そう思うこと自体が悪だと思っていたので、「学校は……、面白くはないかな……。」と少しだけ勇気を出して言った。
「そうだよね〜!面白くないよねー!でも中学校もあんまり面白くなかった!」
と、マイちゃんは笑いながら言っていた。
その後も相変わらず、学校はつまらなかったけれど、何となく過ごして卒業した。
ネットは私に、世界は学校だけじゃないことを教えてくれた。