先日、知人の男性が経営する大阪の繁華街・北新地にあるバーにお邪魔した。
しばらく客は私ひとりだったので、知人を独占状態で人生相談をしていた。
「こないだエッセイを書いた時に『私の憧れの人ってゴージャスでカッコいいお母さんだったんだなぁ』って気付いて......。あ、またエッセイ掲載されたら読んでくださいね!」と話す私に「リサちゃん、北新地で働いたら『ゴージャスでカッコいいお母さん』にしてくれる旦那さん候補が見つかるかもしれないよ〜!」なんて話になった。
そりゃいい考えだと思いながらも、冗談混じりに「えぇ〜!そうしよっかな!」と返答した。
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来店から1時間くらい経った頃。
バーのドアが開くと、マスタードカラーの鮮やかなノースリーブワンピースをお召しになった素敵なご婦人が来店した。
北新地でクラブのママをしているYさん(以下、ママ)、女優の中谷美紀さん似の美魔女だ。
恐らく私より2回りほど年上だろうと推察した。
バーのオーナーである知人が「この人、北新地のママさんなんだよ」と紹介してくれると、上品に緩やかに上がる口角と、トロンとした目元がチャーミングなママに対し、「可愛い......」という感嘆の声が漏れてしまったほど。
なんとママは大学卒業後、証券会社で働いていたが、ひょんなことから25歳の時に北新地でホステスとして働き始めたそう。
これまでずっと独り身でいらっしゃったママは、最近「結婚したい」と常々思うらしい。
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一人でたくましく女の園を生き抜いてきたママが結婚したくなった理由が非常に興味深くなり、「結婚したい理由、お伺いしてもいいですか......?」と小声で尋ねた。
すると、煌びやかで大きい宝石が光る指輪を着けた右手で、前髪をかきあげながらこう話した。
「なんかねぇ〜、好きな時に一緒に海外旅行とか食事に行ける人がほしいの」
そう話して先ほどのようにチャーミングに微笑むママ。
笑顔に魅了された私は再び「可愛い......」と感嘆の声を上げた。
気を取り直して、「素敵ですね!」と返答しかけた私に「でもね!結婚してもずっと旦那さんと一緒にはいたくないの!」と間髪入れずにママは言う。
「あ!最近流行りの週末婚(夫婦で別居するが週末だけ共に過ごすような結婚)がいいってことですか?」と聞くと、再びチャーミングな笑顔で食い付くようにママが「そう!!」と頷く。
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しばらく結婚観やホステス時代の話を伺った後、バーのオーナーである知人が「そう!リサちゃんに新店舗のバーで働いてもらおうと思ってるんだよね」とママに話した。
しかし、ママのホステス時代の恐ろしいエピソードを聞いた後でおじけずいた私は「いやいやいやいや!お手伝い程度であれば......」と萎縮した。
するとママが「いいじゃない?20代なんて若いんだから。水商売を始めてみて合わなければ辞めればいい、それだけの話だし。30代になってからじゃなかなか始められないわよ?私も北新地で働き始めたの、25歳の時で今のリサちゃんくらいの歳だったし」と背中を押してくれた。
最初に相談していた話を知人が思い出し、「やっぱりリサちゃんがなりたい『ゴージャスでカッコいいお母さん』になるには、うちで働いたら近道かもよ?」と、さらに背中を押した。
そんな経緯で、知人のバーのお手伝いを時たますることになった私。
何事にも慎重になってしまう私の背中を軽やかに押してくれた知人に、「結婚→出産→子育て」が結婚の全てではないことを教えてくれたママ。
野心のお裾分けをいただける夜の街はとても刺激的だ。