たくさんのことを諦めて、好きだったものを手放して、私は大人になった。中学生の頃は、「好きなことばかりしてないで勉強しなさい」と言われた。高校に入学すると、「大学に入ってから好きなことをしなさい」と言われた。大学生活を夢見て、気になる大学の資料を請求したり、オープンキャンパスに参加したりした。

そして気づいてしまった。「今からじゃ、間に合わない」と。芸術の道も、音楽の道も、その道で努力し続けた人しか選べない道なのだと。学校の勉強しか努力していない私は、もう手遅れだった。周りの大人の言う「大学に入ったら好きなことができる」は、適当な学部に入って、適当に遊ぶことを指していたのだ。

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大学進学という人生の中の大きなイベントで、私は諦めることを選んだ。大きすぎるイベントだったからこそ、その他の小さなライフイベントで何かを諦めるという行為は簡単なものになってしまった。でも、諦めるたびに心は疲弊した。次第に私は、好きだとかやりたいだとか、こだわりを持つことを辞めた。何事も、ほどほどに。本気になる前にフェードアウトする。そんな人生を歩むことにした。

そんな私の転機は、『かがみよかがみ』というエッセイ投稿サイトとの出会いだった。投稿者はアマチュアの女の子たち。スタートラインが私と同じ普通の女の子たちだった。ここでなら、私も挑戦できるんじゃないかと思いエッセイを投稿した。

初めて投稿したエッセイは、編集部選の特集に掲載された。その後もエッセイを投稿し、朝日新聞にも掲載された。普通の女の子から、表現者になれた気がして、うれしくてたまらなかった。

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それでもまだ、私の諦める癖は抜けていない。「どうせダメだ」、「時間がもったいない」、と自分の心に声をかけてしまう。今までは、そんな自分でいいと思っていた。でも、あの時の悔しさを、言葉にできなかった思いを、エッセイにすることで、私は前に進んでいる。このエッセイを執筆している私は、これまでの自分から変わりたいと思っている。無駄でもいいから、挑戦してみてから諦めたいと思うようになった。

だから私は、この秋に大きな挑戦をしてみようと決めた。ずっと憧れていた出版社の新人賞に応募してみようと思っている。書籍1冊分、約10万字の執筆に、この秋、挑戦する。

『かがみよかがみ』で、1500字という短い作品は何度も書いてきたけれど、それ以上の作品を書くことはほとんどなかった。1500字という文字数はちょうどよかった。時間にして、90分ほどで書き上げられる文字数。採用されなくても諦めがつけられた。それに比べて10万字は、きっと簡単に諦めがつかないだろう。それでも、私は挑戦する。諦めのつかない経験もきっとこれからの私の作品のスパイスになると思うから。

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当時、周りの大人たちが言っていたように、大学生になった私は、好きなことに没頭していても、誰からも何も言われなくなった。好きなことを好きにできる環境にいる。自分でやりたいことを選べる環境にいる。私は、自由だ。それなのに、私の心は自由を許せなかった。認められなかった。

私は、漠然と与えられた自由を使いこなせなかった。なんでもできるからこそ、なんにもできない。1歩踏み出すきっかけも、勇気も、自由は与えてくれなかった。だからこそ今回は、執筆期間を秋と決めて、不自由な制約のある中で自由を謳歌してみようと思う。今度こそ私は、諦めず、手放さず、好きな気持ちを大切に抱えたまま夢を追いけていく。22歳の秋は、執筆の秋を楽しもうと思う。