小さい頃からずっと、年下の子のお世話をすることが好きだった。

「保育園の先生になりたい」と、小中高の卒業文集に書いていたことを思い出す。何かの折に将来の夢を発表する時も、「保育園の先生になりたい。優しい先生になりたいです」と言い続けた。

その夢をそのままなぞるように、迷うことなく保育科に進学した。
保育の勉強をし、児童館や保育園でアルバイトをした。サークルは、子どもたちの学習支援。趣味のお絵描きや手芸、料理にも打ち込み、一部だけ切り取れば、謳歌という言葉が似合う大学生活だった。
好きなことにただ忠実で、嫌いなものは頑として跳ね除けた。保育の勉強は好きだったが、大学と反りが合わず、逃げていた。
ありとあらゆる理由をつけて、逃げて逃げて逃げ回っていた。だが、資格を取らないと保育園の先生になれない。教員と揉め、泣いては葛藤していた。

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そんな中、ずっと味方してくれた先生がいた。歳があまり離れていない先生だ。その先生はわたしの文章や作り物を見て言った。
「マドカさん、研究職とか興味ない?向いてると思うよ」
わたしの夢が決まった瞬間だった。
なんの取り柄もないと思っていた。だってわたしは、わがままで、頑固で、泣き虫だ。
でもその先生は、泣いているわたしの背中を撫で、「いいところたくさんあるのに、もったいないよ」と励ましてくれた。

今の自分は嫌だと思った。自分を変えたい。
考えあぐねては本を読んだ。保育の本はもちろんのこと、教育書、文学、画集。
たくさんの人と会った。3年生なのにインカレのサークルに参加した。みんなが優しく受け入れてくれた。そこでは、みんな違うことをしていた。
やったことのないことに挑戦もしてみた。1人で大阪に旅行。夜行バスに乗って、学生なのに研究授業を見せてもらった。学生だからと軽んじることなく、真剣に話してくれた職員の方に、大人としての立ち居振る舞いを教わった。

努力して、がんばれば、先生みたいになれるんじゃないかと思った。見当違いなことをたくさんしたと思う。ただ、わたしにとっては、全部が全部、必要なことだった。

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大学を卒業して2年経つ。わたしは逃げなかった。幼稚園教諭、保育士の免許資格を取得した。今はこども園で働いている。
社会人になってから、通信制大学にも入学した。勉強したいことがたくさんで、知りたいことを知り尽くすには、時間がいくらあっても足りないよ。
残業が多い、肉体労働で体力が持たないと弱音を吐きつつも、諦めたくないと専門書を手に取った。保育の研修も、シンポジウムも、我先にと申し込み、学ぶことを続けている。

夢を叶えた。保育園の先生になれた。今の夢は先生みたいな研究者になること。
その夢はこれから叶えていきたい。わたしはもう逃げないよ。

そして、先生へ。
わがままで泣き虫なわたしに、がんばる理由をくれてありがとうございました。