誰でもいいから、包み込んでほしい。愛されている感覚がほしい。失恋は何度も経験しているはずなのに、湧き上がってくる負の感情に打ち勝てない。それでも、甘えるのが苦手で、人に弱さを見せられない長女気質な私は、心に負った傷を隠しながらただ一人、泣くしかなかった。

いっそ、お酒の力を借りて、誰かとどうにかなれば気が晴れるかもしれない。助けを求め夜の街を出歩いてみても、どこかで理性が働き、一時の快楽を許さなかった。

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最後に失恋をしたのは、２５歳の時。５歳上のDJと仕事で知り合い、気付けば心を奪われていた。いかにも女性ウケを意識した、匂いが強めの香水、シルバーのネックレスと腕輪を身に着け、週末の夜にはクラブでミキサーを回す。大真面目に生きてきた人生からは、好きになるなんて考えられない相手だった。だけどデートに誘われては完璧にエスコートされ、まんまとハマってしまった。「今、ホテルに一人で休んでいるから」。

出会って３か月がたったころ、２回目のデート以降連絡のペースが落ちた彼から、早朝にメッセージが届いた。その先どうなるか、想像はできた。正式に付き合っていないのだから、行くべきじゃない。ためらいはもちろんあったが、関係を進展させたいという思いが勝った。

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期待する結果にはならなかった。何事もなかったように振る舞う彼に、いよいよ思いを伝えた。「今はDJの活動に集中したいから。恋愛は考えられない」。よくある断り文句だった。手を出しておいて、そんな都合のいい話があるわけないだろう。怒りなのか悲しみなのか、自分でも分からない、言葉にできない負の感情がぐるぐると渦を巻いて湧き上がってきた。彼にぶつけたかったが、できなかった。いい女でいたかった。

「諦めなければ」。

頭では理解していたが、すぐには吹っ切れなかった。「気持ちが変わって、今後付き合いたいと思う可能性はある」。言葉を真に受け、彼がプレーするクラブへ毎週足を運んだ。バカな努力は実らず、半年後、彼は別の女性とデキ婚した。

もう、同じ思いはしたくない。心に決め、彼と連絡を絶った私に近づいてきたのは、またもDJだった。昼間は営業マンとして、年収２千万円を目指しバリバリ働いているという。某お笑い芸人に似た顔はタイプではなかったものの、最近は少ない肉食タイプに心動かされた。

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失恋をまだ引きずっていた私は、彼と初めて飲みに行く日、酒に飲まれるつもりでいた。どうなってもいい、傷が癒えるなら。いつもよりハイペースでビール、ハイボール、ワインと体に流し込んだ。しかし、３件目の店を出るやいなや、いざ彼の手が体に伸びてくると一気に正気に戻った。別の人に逃げたところで、幸せにはなれない。不安を覚えない、穏やかで温もりのある不変の愛がほしい。

それから、自分磨きにまい進した。１年後、真面目な今の旦那に出会い、翌年、結婚した。当時を青春の１ページとして、良い思い出と捉えられるくらい、落ち着いた生活を送っている。もう、失恋する心配はないけれど、仕事で行き詰った時、育児に追われ自分を構えない時、忙しくて息抜きができず、ストレスが溜まった時…何もかも忘れて、思いっきりはしゃぎたくなる。

本当はお酒がなくてもできればいいのだけれど、素面の状態で自分の感情をさらけ出せるほど、まだ強くない。あの時の私は結局、お酒の力にお世話にならず乗り越えてきたが、時には何かの力を借りながら前に進めばいい。人生、うまくいかないことだらけなのだから。